研究課題
ヒトの皮膚は、角化細胞や表皮付属器、線維芽細胞が協調し、生化学的特性、組織構築を変化させ、体表の各部位に特異的な分化を達成し、ヒトの皮膚が担う複層的で時に背反する機能を果たしている。このヒト皮膚の驚くほど柔軟で複雑な分化誘導因子を特定する解析は、これまでに様々に試みられてきたが、これら誘導因子は発現量が小さいと想定され、発見には至っていない。これまでに、ヒトの掌蹠と体幹の皮膚の特徴を遺伝子発現の網羅的解析により説明すべく、角層形成や自然免疫などの多様な相違点について調べてきた。本研究では、表皮嚢腫と外毛根鞘嚢腫の属性の極めて類似したアテロームの2型を用いる。それぞれ、表皮と毛包を非常に純粋に単純化した腫瘍であり、その発生母地の角化機序、分化誘導を反映している。表皮嚢腫は毛包間表皮を、外毛根鞘嚢腫は毛包上皮を発生母地としており、これらの分化形態を反映した嚢腫形成となっている。この日常診療で非常に頻度の高い表皮嚢腫と外毛根鞘嚢腫を対照し、 次世代シーケンサによる網羅的な遺伝子発現解析(トランスクリプトーム解析)を行い、これまで明らかにできなかった、K1-K10に代表される毛包間表皮の誘導因子と、逆の毛包への分化誘導因子を特定することを目的とする。さらに、これら属性を持つ皮膚のまだ発見されていない表現型やそれぞれ固有の常在菌叢の検出も試みたい。これまでに、通常の皮膚科診療において、切除された検体で、病理組織学的検査により、感染を生じていない非破壊性の表皮嚢腫と外毛根鞘嚢腫と診断された検体を選別した。これらの組織よりRNAを抽出し、トランスクリプトーム用ライブラリーの基質とし、網羅的遺伝子発現の生データを取得することができている。
3: やや遅れている
表皮嚢腫と外毛根鞘嚢腫のいずれのパラフィン組織も豊富に保存されているが、RNA抽出が検体によっては質もしくは量が不十分となるものがあった。そのため、検体の再提出や新しく検体の選定を行い、再度提出しており、当初の予定より若干遅れている状況となっている。
2020年度に取得したトランスクリプトームデータを、講座内でマクロデータに落とし込み、DeseqやedgeRなどの専用解析ライブラリやLasso回帰、主成分分析の因子負荷量計算など複数の統計学的解析を行い、階層状に絞り込みを行う。上記の発現変動解析で得られた個別の分化誘導に関連する遺伝子や、新たに発見された表現型マーカーについて、多数の健常皮膚や粉瘤組織において免疫組織学的に検証する。さらに、特定した分化誘導因子について、初代培養ヒト培養角化細胞へ添加し、実際に毛包への分化を、内外毛根鞘特異なケラチン発現などを追跡することで検証する。
次年度にも解析する検体の追加があると予想されるため、一部を繰り越した。トランスクリプトーム解析費用として使用予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 11件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 2件) 図書 (4件)
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