乾癬は表皮の細胞増殖亢進と分化不全を特徴とする疾患で、免疫異常がその病態形成に強く関わっている。生物学的製剤の開発により高い効果が期待できる治療が可能となったが、注射製剤であり時に重篤な副作用を合併することがある。そのため経口投与可能で安全かつ強い臨床効果を発揮する新薬の開発が望まれる。スフィンゴシン1リン酸(S1P)とは、細胞の増殖、分化、免疫、炎症など様々な生理機能に関与している脂質メディエーターの一つである。S1P/S1P受容体シグナルは免疫担当細胞の分化・遊走を制御しており、S1P受容体阻害剤は自己免疫疾患に対する優れた治療薬として有望視されている。特に選択的S1P1受容体阻害剤は、徐脈などの副作用に繋がるS1P3受容体シグナルは阻害しないためより副作用の少ない薬剤と考えられる。乾癬モデルマウスに選択的S1P1受容体阻害剤を投与し、その有効性を検討することを本研究の目的とする。 マウスの耳介や剃毛した背部皮膚にイミキモドを連日塗布し、紅斑・鱗屑・浸潤を伴う乾癬様皮疹を生じることを確認した。次にイミキモド誘発乾癬モデルマウスに選択的S1P1受容体阻害剤を連日経口投与したところ、コントロール群と比較してスキンスコアは有意差をもって改善し、皮膚の病理組織にて表皮の厚さは減少した。また、免疫染色の結果から薬剤投与により皮膚への炎症細胞浸潤は減少していた。さらに、フローサイトメトリーの結果より脾臓における制御性T細胞の増加を認めた。最後に、皮膚において炎症性サイトカインであるIL-17、IL-23が薬剤投与により有意に減少していた。選択的S1P1受容体阻害剤は、イミキモド誘発乾癬モデルマウス皮膚への免疫担当細胞の遊走抑制作用を介して乾癬の炎症を抑制していると考えられる。このように、選択的S1P1受容体阻害剤は乾癬に対して有効な治療薬となる可能性が示唆された。
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