研究課題/領域番号 |
20K17351
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
天田 藍 (梶田藍) 岡山大学, 大学病院, 助教 (80770320)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 表皮角化細胞 / Toll様受容体3(TLR3) / 短鎖2本鎖RNA / イノシン酸 / シチジン酸 / サイトカイン / 抗菌ペプチド |
研究実績の概要 |
我々は皮膚ウイルス感染症における表皮角化細胞の自然免疫応答に着目し、研究を進めてきた。表皮角化細胞をToll様受容体3(TLR3)のリガンドである合成2本鎖RNAのPoly(I:C)で刺激すると、非常に強力な炎症細胞が誘導される。このPoly(I:C)の性質に着目し、表皮角化細胞においてTh1サイトカインであるIFN-γがTLR3の発現と機能を増強していることを見いだした。表皮角化細胞をIFN-γとToll様受容体3(TLR3)のリガンドである合成2本鎖RNAのPoly(I:C)で刺激すると、相加相乗的にサイトカインや抗菌ペプチドの発現を増強することを発見した。これらのサイトカインや抗菌ペプチドは抗ウイルス活性を有することも確認した。さらに、表皮角化細胞を用いたウイルスプラークアッセイでもPoly(I:C)で刺激するとウイルスのプラーク数が激減することを確認した(J Invest Dermatol. 35(8):2005-2011, 2015)。 これらの結果から、TLR3を介して抗ウイルス活性を増強するPoly(I:C)に着目し、皮膚ウイルス感染症に対する新しい外用治療薬を開発する計画を立ち上げた。皮膚透過性と分子量の観点から、Poly(I:C)の分子量を小さくするために短鎖2本鎖RNAを合成し、表皮角化細胞に刺激を行った。様々な分子量の短鎖2本鎖RNAで刺激を行ったところ、比較的小さい分子量の短鎖2本鎖RNAでサイトカインの発現が増強されていることを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
皮膚透過性の観点から、外用薬の分子量は500以下が望ましいと考えられるが、Poly(I:C)は0.2~8kbと大きいため、2本鎖RNAの分子量を小さくすることとした。モノヌクレオチド (イノシン酸C10H13N4O8Pとシチジン酸C9H14N3O8P=I:C)を用いて、以下の2本鎖RNAを合成した。 ①(I:C)の2量体 ②(I:C)の4量体 ③(I:C)の6量体 ④(I:C)の8量体 ⑤(I:C)の10量体 ⑥(I:C)の20量体 ⑦(I:C)の30量体 まずは短鎖2本鎖RNAが表皮角化細胞においてTLR3依存性抗ウイルス因子の発現を誘導できるかについて検討した。培養ヒト正常表皮角化細胞を2量体~30量体の短鎖2本鎖RMAを10-9~10-6Mの濃度でそれぞれ刺激を行い、リアルタイムPCR法とELISA法を用いてサイトカインや抗菌ペプチドの発現を解析した。
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今後の研究の推進方策 |
まずは抗ウイルス活性を評価するため、ウイルスプラークアッセイを行う。表皮角化細胞を短鎖2本鎖RNAで刺激後、24時間後に単純ヘルペスウイルス1型を加え、48時間後に培養液ごと細胞を回収、ウイルス原液を作成する。そのウイルス原液をVero細胞に添加し、48時間後にウイルスプラーク数を比較検討する。当検討から、どの短鎖RNAが実際に高い抗ウイルス活性を示すのかが明らかとなる。 表皮顆粒層レベルにもウイルス感染細胞が存在することを考慮すると、薬剤は分化した表皮角化細胞にも作用させる必要がある。表皮角化細胞を高濃度カルシウム(2mM)で分化誘導し、その後短鎖2本鎖RNAで刺激し、リアルタイムPCR法、ELISA法、ウイルスプラークアッセイを行う。 また、皮膚ウイルス感染症モデルマウスを用いた実験も計画している。8~12週齢のBalb/c野生型マウス背部皮膚に単純ヘルペスウイルス1型をスクラッチアッセイにて感染させる。48時間後皮膚病変部の大きさを測定して評価する。次に2本鎖RNAを外用塗布し、病変部の大きさを測定後、マウスを安楽死させる。採取した皮膚病変部をヘマトキシリン・エオジン染色にて病理組織学的に観察する。また、病変部ウイルス量を評価するため採取皮膚の一部をBeads破砕機で処理後、ウイルスプラークアッセイを行う。短鎖RNAが臨床応用可能かどうかを評価する最も重要な検討である。 表皮角化細胞においてpoly (I:C)は強力に抗菌ペプチドの産生を誘導することから、短鎖二本鎖RNAは抗細菌活性および抗真菌活性も増強させる可能性がある。培養上清を用いてbacterial killing assay, fungal killing assayを行い、それらの活性を評価する。短鎖RNAのさらなる効能、抗菌活性を知る重要な検討である。
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