沖縄はHTLV-1 キャリア率が世界的にも非常に高く、皮膚型成人T細胞白血病リンパ腫の患者数も極めて多いが、この皮膚型成人T細胞白血病リンパ腫 と他の皮膚T 細胞リンパ腫との鑑別は、当地では必ずしも容易ではない。現状ではHTLV-1 の単クローン性の組み込みと、T 細胞受容体の再構築をサザンブロットで証明しているが、この手法ではHTLV-1 に感染したT 細胞が、皮膚型成人T細胞白血病リンパ腫 として腫瘍化したのか、皮膚型成人T細胞リンパ腫発症の機序以外によって皮膚リンパ腫を発症したのかを、全く鑑別できない。本課題では、皮膚型成人T細胞白血病リンパ腫 と他の皮膚リンパ腫の腫瘍組織のRNA 発現パターンを、新開発の国内AI を用いて網羅的に解析し、各リンパ腫に特徴的な遺伝子群を複合的に抽出する。それに基づき、これらを鑑別しうる病理学的な診断マーカーを特定し、皮膚リンパ腫の鑑別アルゴリズムを確立したい。さらに、皮膚型成人T細胞白血病リンパ腫 の腫瘍化機序に直結する疾患特異的な遺伝子発現や、ドライバー変異を探索する課題である。 これまでに、通常の皮膚科診療で診断に使用された病理標本と、その臨床経過を含めて再検討し、HTLV-1ウイルスの細胞数当たりのウイルスコピー数が10コピー/100細胞以上で典型的な皮膚型成人T細胞白血病リンパ腫と断定できる標本を選別し提出した。選別した組織よりRNAを抽出し、トランスクリプトーム用ライブラリーの基質とし、網羅的遺伝子発現の生データを取得することができた。検体数が少なく、統計学的に有意、かつ遺伝子発現量の差が大きい遺伝群の特定はなしえてないが、既報告を踏まえ、鑑別に重要だと思われる遺伝子を複数同定した。
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