研究課題
上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬は上皮性悪性腫瘍の治療に頻用される一方で、ざ瘡様皮疹などの皮膚症状を高率に生じることが知られている。EGFR阻害薬による薬疹の発症には皮膚自然免疫応答が密接に関与していると考えられるが、その詳細なメカニズムについては未だ不明な点が多い。これまでにわれわれは、抗EGFRモノクローナル抗体(EGFR mAb)投与後にざ瘡様皮疹を生じた患者の頬部皮膚においてβ-defensin-1および-3の産生レベルが有意に減少すること、β-defensin-1および-3は主に黄色ブドウ球菌刺激によって培養ケラチノサイトから産生誘導され、EGFR mAb存在下ではこの産生が抑制されることを明らかにしている。本研究では、上記背景に基づき、EGFR阻害薬がヒトの皮膚の自然免疫応答に及ぼす影響を検討することで、分子標的治療薬による皮膚障害の病態解明を目指している。本年度は、黄色ブドウ球菌刺激によるβ-defensin産生メカニズムを解明するために、EGFR下流のシグナル伝達を阻害した培養ケラチノサイトを用いて、黄色ブドウ球菌に対する自然免疫応答の検討を行った。シグナル伝達阻害薬として、Raf活性を阻害するソラフェニブ、MEK活性を阻害するトラメチニブ、mTORを標的分子とするエベロリムス、テムシロリムス、マルチキナーゼ阻害薬のスニチニブを用いた。これらの薬剤をそれぞれ単独でケラチノサイトの培養系へ添加し、その7時間後または24時間後に黄色ブドウ球菌培養液上清を加え、3日間の刺激を行った。しかし、いずれの薬剤存在下でもβ-defensin産生へ影響を及ぼさなかった。
2: おおむね順調に進展している
昨年度から引き続き、EGFR阻害薬投与患者皮膚における抗菌ペプチド産生についてさらに解析を進め、EGFR阻害薬によりβ-defensin産生が有意に減少し、この産生抑制は皮膚症状と相関することを論文にまとめることが出来た。EGFR阻害薬による自然免疫応答への影響と患者皮膚細菌叢との関わりや、ブドウ球菌刺激による表皮ケラチノサイトからのβ-defensin産生のメカニズムについては未だ検討中であるが、総合的にはおおむね順調に進展している。
引き続き、培養ケラチノサイトを用いて黄色ブドウ球菌刺激由来のβ-defensin産生メカニズムについての検討を行う。さらに、EGFR阻害薬投与患者における皮膚細菌叢について、その構成菌種や菌量の網羅的解析を行い、細菌とEGFR阻害薬による皮膚障害および皮膚自然免疫応答との関わりについての検討を進める。
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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Clinical and Experimental Dermatology
巻: 45 ページ: 1055~1058
10.1111/ced.14311