本研究はEBウイルス感染が関与するとされる蚊刺過敏症とEBウイルスに特有の小分子RNAの配列が集積した遺伝子領域であるBART遺伝子群との関係を解明しようとするものである。蚊刺過敏症は蚊に刺されることにより過剰な免疫反応と皮膚組織の潰瘍を呈するものであるため、血液系細胞や上皮系細胞でのBART遺伝子群による変化を解析するべく、本研究の最初の段階としてCre-loxPシステムを用いてBART遺伝子群を組織特異的に発現が可能なマウスを作出した。事前検討によりBART遺伝子群を恒常的に発現するマウスが皮膚掻痒を呈して血中IgE濃度が上昇することが判明していたため、まずはCre-loxPシステムを用いた新しいマウスでも同様の結果が得られるか確認するべくCAG-Creマウスを用いて全身性にBART遺伝子群を発現させたが、全身発現性の仔マウスは胎生致死となり産出されなかった。この結果からBART遺伝子群の過剰な発現は発生において致命的な変化を引き起こすことが示唆された。次に蚊刺過敏症は過剰なアレルギー反応であると考えられるため、Vav-Creマウスを用いて血球系細胞にBART遺伝子群を発現させたところ、皮膚掻痒などのアレルギー様症状は見られなかった。続けてこのマウスに蚊唾液腺抽出物の皮内投与した際に急激な免疫反応が誘引されるか解析を行ったが、単回投与の結果においては劇的な変化が観察されることはなかった。これらの結果から、皮膚掻痒を呈するような反応は、複数回の外来抗原に暴露することや、BART遺伝子群が上皮系細胞で発現することなどが原因となって生じるものであることが示唆された。
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