研究課題/領域番号 |
20K17363
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
山口 礼門 金沢医科大学, 大学病院, 医員 (50836533)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Peroxiredoxin4 / 創傷治癒 / 酸化ストレス / 線維芽細胞 / 加齢 |
研究実績の概要 |
昨年度までに、ペルオキシレドキシン(PRDX4)が酸化ストレス負荷の高い、特に高齢のマウスにおいて創傷治癒遅延を改善することを明らかにした。本年度はそのメカニズム解析に注力した。高齢マウスでは創傷肉芽組織及び全身性の酸化ストレスが増大しており、PRDX4はその過剰な酸化ストレスを低下させ炎症反応を抑制した。炎症反応の抑制には高齢hPRDX4トランスジェニックマウス(Tg)の肉芽組織中での好中球浸潤が少ないことが原因と考えられた。またPRDX4は、肉芽組織中の線維芽細胞の増殖と遊走を亢進しアポトーシスを抑制した。また高齢TgではFGF2-ERK pathwayの亢進が創傷治癒促進に関与する可能性が示唆された。高齢Tgでは同世代の野生型(WT)と比較し、肉芽組織中のマクロファージ数が有意に増加しており、高齢TgにおけるFGF2増加の原因になっているものと考えられた。マウスの背部皮膚由来の初代皮膚線維芽細胞を用いたin vitroの実験においても、hPRDX4由来の皮膚線維芽細胞は野生型由来のものと比較し、酸化ストレス負荷条件下において高い増殖能および遊走能そして抗アポトーシスを示した。 創傷治癒には適度な酸化ストレス濃度が必要である。過去の研究では一部の抗酸化酵素の過剰発現は、酸化ストレス蓄積の少ない個体の酸化ストレスを極端に下げることで、創傷治癒を妨げる可能性が指摘されている。しかし本研究ではPRDX4は酸化ストレス蓄積の少ない若年マウスの創傷を悪化させることは無く、本酵素が治療薬として安全に適用できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に再現性のある創傷治癒マウスモデルを速やかに確立できたことで、その後の解析を円滑に進めることが出来ている。ウエスタンブロットやリアルタイムPCRは当教室設備に加え、本学の共同利用設備を利用することで順調に進めることが出来た。当教室では細胞培養設備を備えており、in vitroの細胞実験を同時に実施できた。また本年度は幾つかの学会で本研究発表を行い、他の研究者から有意義な情報を入手できたことで、研究内容をより充実させることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、PRDX4が高齢マウスの創傷治癒遅延を改善するメカニズムとして、FGF2-ERK signaling pathwayの亢進による線維芽細胞機能の促進を明らかにした。次年度はこの伝達経路の亢進に関与する上流および下流の因子の絞り込みを進め、更なる分子機構の解明に着手する。現時点でin vitroの実験(マウス由来の皮膚線維芽細胞を用いた実験)は4週齢の若年マウスでしか詳細な検討を行っていない。次年度は若年、成熟、高齢の各年齢層から採取した線維芽細胞を使用し、野生型およびhPRDX4トランスジェニックマウスでの酸化ストレス耐性を評価したい。可能であれば、磁石を使用した「皮膚虚血再灌流モデル」を実施し、ヒトの難治性皮膚潰瘍(褥瘡)に対する治療応用に繋げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルスの蔓延のため、予定していた海外および国内学会がオンライン開催となり、現地までの旅費を必要としなかった。予定して学会報告は次年度に行う予定である。
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