研究課題/領域番号 |
20K17367
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
浅沼 研 秋田大学, 医学系研究科, 副総括技術長 (50710125)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 赤血球造血 / ホスファチジルイノシトールリン酸 / PI3K |
研究実績の概要 |
ヒト赤芽球は、細胞増殖、核の濃縮、核の偏在化(細胞極性化)、核の細胞外排出(脱核)を経て赤血球に終末分化するユニークな細胞である。分化した赤血球は脱核しているが故に自己増殖能がなく、深刻な貧血をもたらす血液疾患罹患者は、献血による血液製剤を用いた輸血に頼らざるを得ない。 本研究では、細胞の増殖のみならず分化においても重要な生理機能を持つことが知られているPI3Kとその産生産物であるホスファチジルイノシトールリン酸に着目する。純化したヒト赤芽球の各分化段階における細胞内でのPI3Kの発現と種々のホスファチジルイノシトールリン酸を網羅的に定量することにより、ヒト赤血球造血におけるホスファチジルイノシトールリン酸の生理機能を明らかにし、ヒト赤血球造血のメカニズムを明らかにすることを目的とした。令和4年度までの研究実績を以下に示す。 前年度までに、ヒト赤芽球の各分化段階におけるPI3Kの産生物であるホスファチジルイノシトールリン酸の定量解析を行った。健常者から採取したヒト赤芽球の培養7日目、9日目、11日目、13日目の各分化段階における細胞から酸性リン脂質画分を抽出・精製し、質量分析機を用いて定量解析を行った。その結果、ホスファチジルイノシトール3リン酸(以下、PI(3)P)が、赤芽球の成熟に伴いその前駆体であるPIと比較して相対的に有意に増加する事を明らかにした。本年度は更に赤芽球の各分化段階における種々のPI3Kのタンパク質の発現を網羅的に解析した。結果、赤芽球の成熟に伴い多くのPI3Kの発現が減弱していく一方で、PIからPI(3)Pを特異的に産生すると考えられているクラスⅢのPI3KであるPIK3C3は脱核に至るまで発現が確認される事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究により、ヒト赤芽球の成熟に伴い細胞内のPI(3)P量が増加し、更にPI(3)Pを産生するPIK3C3の発現レベルが脱核にいたるまで高いレベルで維持されていることを明らかにした。ヒト赤芽球の成熟・分化におけるPI(3)Pの生理機能を明らかとするため、ヒト赤芽球へPIK3C3の過剰発現を試みた。まずPIK3C3のサブクローニングを行いPIK3C3とPIK3C3活性欠失変異体の発現ベクターを構築した。構築した発現ベクターを用いて培養細胞レベルでPIK3C3、PIK3C3活性欠失変異体共にタンパク質が正常に発現する事を確認した。その後ヒト赤芽球において電気穿孔法による過剰発現を試みたが細胞へのダメージが大きく解析が困難であった。細胞毒性の軽減を期待しリポフェクション法やウィルスベクター法による検討も行ったが、細胞へのダメージを軽減できずにいる。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子導入に伴う細胞毒性によりその後の解析が困難な状況にある。細胞毒性の軽減を期待し、考えうる遺伝子導入法を試みたが現時点で解決には至っていない。残りの研究期間を考慮し、より細胞毒性の低い遺伝子導入法の検討を行いつつPI3Kの各種阻害剤を用いた実験を平行して行い、赤血球造血におけるPI(3)Pの生理機能を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究用試薬の購入に充てたかったが残額では希望する試薬の購入には不充分であったため。
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