研究実績の概要 |
ヒト赤芽球は細胞増殖・核の濃縮・核の偏在化・脱核という一連の成熟過程を経て赤血球に終末分化する。本研究では細胞の増殖のみならず分化においても重要な生理機能を持つ事が知られているPI3Kとその産生産物であるホスファチジルイノシトールリン酸に着目した。純化したヒト赤芽球の各分化段階における細胞内でのPI3Kの発現量と種々のホスファチジルイノシトールリン酸を網羅的に定量する事により、ヒト赤血球造血におけるホスファチジルイノシトールリン酸の生理機能を明らかとする事を目的とした。 前年度までに、ヒト赤芽球の各分化段階におけるPI3Kの産生物であるホスファチジルイノシトールリン酸の定量解析を実施した。健常者から採取したヒト赤芽球の培養7日目、9日目、11日目、13日目の各分化段階における細胞から酸性リン脂質画分を抽出・精製し、質量分析器を用いて定量解析を実施した。その結果、ホスファチジルイノシトール3リン酸(以下、PI(3)P)が、赤芽球の成熟に伴いその前駆体であるPIに対し相対的に増加する事を明らかとした。ホスファチジルイノシトール-3,4-ビスリン酸、ホスファチジルイノシトール-3,4,5-トリスリン酸は検出限界未満であった。 前年度から本年度にかけては、赤芽球の各分化段階における種々のPI3Kタンパク質の発現を網羅的に解析した。結果、赤芽球の成熟に伴い多くのPI3Kの発現が経時的に減弱し最終的に消失する一方で、PIからPI(3)Pを特異的に産生するとされるクラスⅢのPI3KであるPIK3C3は脱核に至るまで発現が維持されている事を明らかにした。更にPIK3C3の野生型、並びに活性欠失変異体の発現ベクターを構築し、各々を赤芽球に過剰発現する事に注力したが、タンパク質の過剰発現には至るものの細胞へのダメージが深刻であり生理機能を反映していると解釈するに足るデータを得るには至っていない。
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