研究課題
本研究では、若齢期から高齢期にかけての各ライフコースのマウス造血幹細胞を用いてシングルセルレベルでRNA-sequence解析を行い、造血幹細胞の機能低下機序の解明を試みた。横浜市立大学免疫学教室の協力の下、各ライフコースのマウス造血幹細胞のsingle cell RNA-sequence解析を行いことで造血幹細胞のクラスター分類化に成功し、既存のBulk RNA-sequence解析では明らかにすることが難しかった幹細胞内のヒエラルキーの存在を明らかにした。また、加齢造血幹細胞で高発現していた遺伝子の大半は加齢造血幹細胞全体ではなく、クラスター毎に発現の挙動がことなること、中でも分泌型分子シャペロンCluが中心的な発現挙動を示すことを明らかにした。実際、免疫染色を行ったところ若齢造血幹細胞に比べて老齢造血幹細胞ではタンパク質レベルでCluの発現量が有意に高発現していた。そこで、Cluレポーターマウスの導入を試み、Cluの発現が造血幹細胞にどのように関わるのかをマウスモデルで検証を行った。その結果、若齢造血幹細胞において低頻度ながらClu陽性造血幹細胞を確認し、これらの造血幹細胞は移植の結果、加齢造血幹細胞同様に低い骨髄再構築能と骨髄球系分可能を有することを明らかにした。このことから、加齢に伴う造血幹細胞機能低下はCluの発現頻度と密接な関係を有することが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
共同研究先である横浜市立大学免疫学教室の協力の下、速やかに加齢造血幹細胞のsingle cell RNA-sequence解析に着手することができた。この解析により、これまで単一集団であると考えられてきた造血幹細胞のクラスター分類に成功した。この結果、これまで加齢造血幹細胞で高度に発現するとされている遺伝子の多くは加齢造血幹細胞全てに発現するのではなく、多様な集団に分類され機能的なヒエラルキーを持つことを明らかにした。中でも加齢に伴い発現量が顕在化する分泌型分子シャペロンCluに着目し、そのレポーターマウスの解析を行った。Cluレポーターマウスの解析から、Clu陽性造血幹細胞は若齢造血幹細胞においてもわずかながら存在し、これらのClu陽性造血幹細胞は加齢造血幹細胞同様に、低い骨髄再構築能と骨髄球系への強い分化能を示すことをマウスモデルで明らかにした。以上のことから、造血幹細胞の加齢に伴う機能低下の一因として原因遺伝子Cluの同定に世界で初めて成功し、Cluを介した加齢造血幹細胞の機能性をの可能性を提示した。
これまでに加齢造血幹細胞の機能低下を示す原因遺伝子であるCluのレポーターマウスを入手し、その機能解析を進めてきた。最終年度ではClu陽性造血幹細胞と陰性造血幹細胞に分けてRNA-sequence解析を行うことで、Cluが造血幹細胞の加齢機序にどのように関わるのかを明らかにし、これらの解析結果を論文として報告する。
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Journal of Experimental Medicine
巻: 218 ページ: e20192283
10.1084/jem.20192283
Leukemia
巻: 4 ページ: 1156-1165
10.1038/s41375-020-01023-1