研究課題
本研究課題では、まずATLに対して複数抗原を標的とするT細胞製剤の開発を目指し研究を行った。健常ドナー末梢血単核球からウイルス抗原であるTax特異的T細胞を誘導することが可能であったが、腫瘍抗原であるNY-ESO-1およびWT-1特異的T細胞を効率的に誘導することは困難であった。この理由として、TaxはATL細胞に感染しているHTLV-Iウイルス抗原であるため、比較的容易に特異的T細胞の誘導が可能である一方、NY-ESO-1は自己抗原であり高親和性T細胞が胸腺での負の選択を経たため、今回の方法では特異的T細胞の誘導ができなかったと考えられた。そこで次に、臍帯血由来T細胞に着目し特異的T細胞の誘導が可能であるかについて検討を行った。臍帯血に含まれるT細胞は成人とは異なるエピトープを認識する可能性があり、また低いHLA適合度が許容されるため、養子免疫療法に最適な細胞源と考えられる。まず臍帯血由来T細胞を用いて、キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)が作製可能であるかを検討した。臍帯血より単核球を分離し、CD8リンパ球に単離後、CARを遺伝子導入した。遺伝子導入効率をtEGFRをマーカーとして評価したところ、ヒト末梢血由来CAR-T作製時と同程度の遺伝子導入効率が得られた。また、CAR-T導入後の細胞数は導入前のCD8リンパ球数の3.9倍となっており、こちらは末梢血由来CAR-Tとくらべ、増殖能がやや劣っている傾向を認めた。次に細胞内サイトカイン染色により炎症性サイトカイン産生能を評価した。臍帯血由来CAR-TからIFN-γの産生は認められたが、TNF-αおよびIL-2の産生は非常に低値であった。したがって、本研究ではこれまでのところ、臍帯血由来T細胞からのCAR-T作製が可能であることが見いだされた。
3: やや遅れている
本研究課題の現在の進捗状況はやや遅れている。その理由として、特定のHLA拘束性を有する単一抗原ペプチドでT細胞を刺激し、腫瘍抗原特異的T細胞の誘導に難渋しているためである。誘導法として、これまで報告されているサイトカインであるIL-6、IL-7、IL-12、IL-15の仕様や、我々の研究グループが開発したPD-L1を高発現する抗原提示細胞を用いるなど工夫を行ったが、特異的T細胞の誘導は困難であった。そのため、当初の計画であったオーバーラッピングペプチド(OLP)を用いた誘導法に移行できない状況である。OLPでの誘導法は、未知かつ低親和性T細胞の誘導が目的であるため、未知のATL抗原を標的とするT細胞作製法は困難であると考えられた。近年、T細胞に腫瘍特異性と機能増強を付与した養子免疫療法の一種であり、HLA非依存的に腫瘍細胞の表面抗原を認識するCAR-T療法の有効性が示されている。そこで今後は、CAR-Tに着目し研究を進めてゆく予定である。
本研究課題では、複数抗原を認識するT細胞養子免疫療法を目指し、腫瘍特異的T細胞の誘導を試みたが、健常ドナー由来T細胞からの誘導は困難であった。次に、臍帯血由来T細胞を用いてCAR-Tの作製が可能であるか検討した。CAR-Tの作製は可能であったが、増殖能およびサイトカイン産生能ともに、成人ドナー由来T細胞と比較し減弱していることが判明した。この過程で、CAR-Tはその細胞内シグナル伝達ドメインの違いにより細胞内代謝状態が異なることが判明した。つまり、T細胞代謝の違いを介してT細胞機能を制御することにより、腫瘍微小環境で抗腫瘍活性を保持しつつ、より長期に生体内で生存可能なCAR-T細胞療法を行うことが可能になると考えている。したがって、今後は当初の計画を変更し、T細胞の代謝に着目し養子免疫療法への応用を目指す予定である。
当初、令和3年度計画では、臍帯血由来T細胞からの特異的T細胞およびCAR-T誘導を行うにあたり、臍帯血由来T細胞からCD19特異的CAR-Tを作製した。研究過程で、臍帯血由来CAR-Tの増殖能およびサイトカイン産生能はやや減弱していることが判明し、またT細胞代謝状態がCAR-Tの細胞内シグナル伝達ドメインにより異なることが強く示唆され、新たな知見として得ることができた。このため、本研究目的を遂行するにあたり、当初計画に加え、T細胞代謝リプログラミングに着目した新規キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞療法について詳細に検討する必要があると判断した。令和4年度分として請求した助成金と合わせてT細胞代謝リプログラミングの違いを介してT細胞機能を制御することにより、腫瘍微小環境で抗腫瘍活性を保持しつつ、より長期に生体内で生存可能なCAR-T細胞療法を行うことが可能になるかについて検討する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
International Journal of Hematology
巻: 115 ページ: 371~381
10.1007/s12185-021-03273-w