本研究の目的は、骨髄に存在する造血幹・前駆細胞を増殖させうる因子、及びそれを発現する環境(ニッチ)を同定することである。抗癌剤5-FU投与や放射線照射を行うと、骨髄内造血幹・前駆細胞が盛んに分裂し、活性化によって血球回復を促していることに着目した。二光子励起顕微鏡を用いてマウスの生きた骨髄内を可視化することによって、活性化造血幹・前駆細胞が血管周囲に存在し、更に移動スピードがコントロールと比較して低下することを見出した。このことから、造血幹・前駆細胞は骨髄傷害後の血管周囲に存在する何らかの因子から、何らかのシグナルを受けていることが示唆された。それを明らかにするために、マウスに移植した造血幹・前駆細胞を骨髄から回収し、RNA-seq法を用いて網羅的な遺伝子発現解析を行い、更に得られたデータの上流解析を行った。結果としてGM-CSFを含む数種の活性化因子候補を見出した。野生型では致死とならない程度の5-FU投与や放射線照射をGM-CSFノックアウトマウスに負荷すると致死となったことから、GM-CSFは骨髄回復に必須の因子と考えられた。骨髄細胞のsingle cell RNA-seq解析を行い、骨髄内に存在する2型自然リンパ球(ILC2)が増殖因子GM-CSFを分泌することが示唆された。IL-33及びMyD88ノックアウトマウスを用いた解析を行い、ILC2は、IL-33及び下流のMyD88分子を介して活性化されることを示した。GM-CSFノックアウトマウスは高容量の5-FU投与によって致死となるが、5-FU投与後に野生型由来ILC2を移植することにより、血球回復が促進され、致死性が回避された。これらの結果からILC2は、骨髄傷害を感知して反応し、骨髄再生を促進していることを明らかにした。このように、本研究によって骨髄傷害後の血球回復メカニズムを同定した。
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