細胞間伝達物質としてのエクソソームの役割と病態的意義が注目されており、疾病治療への応用が期待されている。特定のエクソソームを標的臓器へ特異的に送達出来れば治療効果を最大限に高めることができる。我々は、同種造血幹細胞移植の合併症である移植片対宿主病(GVHD; graft versus host disease) の治療・予防として脂肪組織由来間葉系幹細胞(AD-MSC; adipose tissue-derived mesenchymal stem cell)の有効性をマウス病態モデルで検証し、特に骨髄GVHDに対する優れた効果を報告したが、その機序にエクソソームが関わる可能性が強く想定される。このような背景を踏まえ、本研究では骨髄GVHDに対するAD-MSC由来エクソソームの有効性に関わる分子群をマウス病態モデルを用いて同定し、骨髄への送達に優れたエクソソームを開発することを目的とした。昨年度はAD-MSC由来のエクソソーム単離およびGVHDモデルマウスのAD-MSC投与時の抗体産生能について検証した。GVHDモデルマウスにNP-CGGを免役し、抗体産生を評価したところ、骨髄GVHDを発症したマウスでは抗体産生が著しく低下した一方で、AD-MSCを投与したGVHDモデルマウスでは抗体価の上昇を認めた。骨髄GVHDが免疫能に与える影響及びAD-MSCによる免疫機能の改善を認めた。臨床において、同種造血幹細胞移植後GVHDの患者では、GVHD治療による免疫抑制のみならず、GVHDそのものによる免疫不全を呈している可能性が強く示唆された。本年度はAD-MSC由来エクソソームの分離を試みたが、培養条件によりAD-MSCより分泌される細胞外小胞が一定していない可能性が高く、また無血清培地での細胞培養が予測より困難であったことからmiRNAアレイやNGSといった詳細な解析まで繋げることができなかった。
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