研究課題/領域番号 |
20K17387
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
扇屋 大輔 東海大学, 医学部, 助教 (50589778)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 / CD38 / ダラツムマブ / JAK-STAT3 / モノクローナル抗体薬耐性 / スプライシングバリアント |
研究実績の概要 |
多発性骨髄腫(multiple myeloma;以下MM)は免疫グロブリン産生細胞である形質細胞が腫瘍化した血液悪性腫瘍であり、CD38を高発現している。近年、抗CD38モノクローナル抗体薬であるダラツムマブ(daratumumab;以下DARA)が臨床導入され治療成績は著しく向上したが、いずれDARAに耐性化し再発する。DARA耐性化の機序としてMM側の因子と免疫環境側の因子が報告されており、MM側の因子としてCD38の発現量低下や補体制御タンパク(CD55、CD59)の上昇などが報告されているが(Nijhof IS. Blood 2016)、大規模な報告は認めず、詳細な耐性化の機序の解明が望まれている。 申請者は、骨髄微小環境中のストローマ細胞から産生されるインターロイキン-6(以下、IL-6)がMM細胞のCD38の発現低下を誘導しDARA抵抗性と関わることを発見し、2020年度に誌上発表した。現在、MM細胞におけるDARA耐性獲得の機序をさらに多角的・包括的に解明することで、DARA耐性化を誘導せずDARAの効果を最大限引き出す併用療法を確立すること、DARA耐性獲得後の新たな治療標的を見出すことを目的とし研究を進めている。特にDARA耐性獲得前後のMM細胞のトランスクリプトーム解析を行うべくDARA耐性前後のMM患者サンプルを収集している。また、MM患者のフローサイトメトリによるCD38の発現強度解析により、CD38の発現が患者ごとに多様性があり治療効果との関連を考察している。さらに、2021年度はCD38のスプライシングバリアントに注目し、DARA耐性と関わる可能性がある新規のCD38のスプライシングバリアントを同定し解析を進めている。今後は臨床応用可能な知見を得ることができるよう解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、MM患者のCD38の発現強度・発現パターン解析、JAK-STAT3経路の活性化によるCD38発現低下に関わる因子の検索、CD38発現と相関を示す因子の公共データベースを用いた解析を行い、CD38の発現につき理解を深め、その発現調節に関わる因子の同定に努めた。 CD38の発現について多角的・包括的に解析を進める中で、CD38の発現はエクソン1からエクソン8までの全長の内、各エクソンを均等に発現するのか確認する必要があると考えた。そこで、CD38のエクソンスキッピングによるスプライシングバリアントについて解析を行った。各エクソンを検出するような複数のプライマーセットを作成してPCRで増幅し、ゲル電気泳動にて解析をしたところ、従来報告されているエクソン3のスキッピング以外に新規のエクソンスキッピングによるスプライシングバリアントを同定した。続いて、同じPCR産物を使用して次世代シークエンサーによりゲル電気泳動で同定できない低発現のCD38のスプライシングバリアントの存在を明らかにした。 また、現在DARA耐性細胞のトランスクリプトーム解析に必要な患者サンプルの収集を進めている。近年、MMの治療選択肢が増えたことにより、薬剤耐性化を疑う徴候を認めた際には早期に治療法を変更することが可能となったため、DARA耐性化後も骨髄中のMM細胞が増える前に次治療へ移行することも多い。従ってサンプル収集に難渋はしているが、順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策として、これまでに解析した結果を複数のテーマに分解し、独立したテーマを一部英文誌に投稿し、他のテーマについては臨床的に意義のある解析を進めていく。独立したテーマとしては、2020年度に施行したMM患者のフローサイトメトリ解析の結果をさらに詳細に検討し、英文誌に報告する予定である。 また、2021年度に解析を行ったCD38の新規スプライシングバリアントについて、解析を進める。従来知られているCD38のエクソン3スキッピングはナンセンスコドン介在性mRNA分解により蛋白に翻訳されない。ドミナントネガティブに働いている可能性は否定できないが、タンパクをコードする可能性があるスプライシングバリアントに注目して機能解析を行う。機能解析としては、DARAが結合するエピトープが残存しているか、CD38の細胞外酵素としての機能を保持しているか、DARA耐性MM患者サンプルにおいて検出されるかにつき検討する。さらに、CD38陰性及び陽性のMM細胞株に、骨髄ストローマ細胞の培養上清を添加して、細胞内シグナルの違いを検討する。 現在、DARA耐性前後のMM患者サンプルを順調に収集中であり、サンプルが集まった段階でトランスクリプトーム解析を行う。 上記の複数の手法を用いて解析を行うことで、多角的・包括的にDARA耐性に関わる因子を同定し、臨床的に意義のある治療標的の同定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に各種シークエンス解析を行う予定であり、想定以上の費用がかかる可能性を考慮し、2021年度の58,408円の残金を2022年度に繰り越した。 2022年度の請求分の使用計画は以下の通りである。 ダラツムマブ耐性細胞におけるRNAシークエンス解析(約90万円)、CD38の新規スプライシングバリアントの次世代シークエンス解析(約40万円)、CD38の新規スプライシングバリアントの機能解析(約20万円)、試薬代(約25万円)、MM患者のフローサイトメトリ解析の英文校正費、投稿料(約10万円)、生命科学統合支援センター、実験協力者への人件費・謝金(約7万円)、間接経費(63万円)
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