研究課題
多発性骨髄腫(MM)の治療選択肢は、さまざまな分子標的薬の登場によって劇的に増えたが、一時的な寛解を経たのちに治療抵抗性を獲得し再発する例がほとんどである。MMの再発に関わるがん幹細胞を標的とした治療法の開発が現状打破につながると考えられるが、未だ実現できていない。その理由の一つとして、治療標的候補となりうる真のドライバー因子が特定されていないことが可能性として挙げられる。我々は、MM幹細胞が骨髄内の低酸素領域で維持されており、細胞外分泌小胞(exosomes)の分泌が低酸素環境での生存に寄与することを明らかにしている。本研究は、MM幹細胞のアキレス腱として『細胞外分泌小胞(exosomes)によって分泌されるRNA(exRNA)』に着目し、低酸素環境に潜むMM幹細胞の生存戦略を分子メカニズムから解明する。本年度は、exRNAを介した細胞生存適応について多面的に評価するために、exosome分泌阻害剤(GW4869)による薬理学的手法に加えて、遺伝子組換え操作による条件付きexRNA分泌不全株の作製に着手し、作製完了までの目処を立てた。また、低酸素環境下での生存適応に係る分子メカニズムについて、ミトコンドリア内のHK2発現量解析から一定のヒントを得た。さらに、低酸素適応株におけるexosome分泌亢進の分子メカニズムを明らかにするための、候補シグナルを同定した。以上の成果を基盤として、MM幹細胞の低酸素環境における生存戦略を分子レベルで理解するための具体的な研究方針を調整し、有用な科学的知見の提供に繋げる。
3: やや遅れている
①低酸素環境での生存におけるexRNAの寄与を明らかにするため、exosomesへのmiRNA内包に関わるALIXをノックダウンする細胞株を作製している。恒常的なノックダウン株では低酸素適応時の細胞死誘導により樹立できない可能性を考え、薬物による条件付きノックダウン株の作製を検討したところ、作製に必要なプラスミドの遺伝子クローニングに予想以上の時間が費やされた。その結果、ノックダウン株の樹立の途上にある。②GW4869によるexRNAの分泌阻害がHK2のミトコンドリア局在に与える影響をみるため、ミトコンドリア分画中のHK2のタンパク質発現量を解析した。その結果、exRNAの分泌阻害によってHK2のミトコンドリア内発現量が低下していた。一方で、ミトコンドリア分画サンプルの純度にばらつきが生じることが内標準分子の発現量解析から示唆されたため、あくまで参考データと考えている。③低酸素適応MM細胞株においてexosome分泌が亢進する機序を明らかにするために、細胞内膜輸送系に関わるAシグナルの関与について検討した。その結果、低酸素適応MM細胞株におけるAシグナル関連分子の発現量が親株に比べて上昇していた。Aシグナルが低酸素適応MM細胞株におけるexosome分泌亢進に寄与する可能性が示唆される。
①MM細胞への遺伝子導入は完了しており、現在クローニングならびに機能同定の段階である。条件付きノックダウンによるexRNAの分泌抑制を確認後、低酸素培養を開始し、適応株を樹立させる。適応株に条件付きノックダウンを誘導し、細胞死が生じるか検討する。②ミトコンドリア分画のプロトコルを見直し、純度がばらつかない手法で得たサンプルのミトコンドリア内HK2発現量を解析する。exRNAの分泌阻害によるミトコンドリア内HK2発現量低下の再現性がとれた場合、HK2発現低下機序の解明に移る。具体的には、HK2の主たる誘導因子であるHIF-1αの発現変動を検証する。③低酸素適応MM細胞株において、細胞内膜輸送系に関わるAシグナルの下流分子の発現を解析する。またAシグナル阻害剤を低酸素適応MM細胞株に処置し、exosome分泌への影響をみる。これにより、Aシグナルのexosome分泌亢進への寄与を検証する。
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