研究課題/領域番号 |
20K17390
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
池辺 詠美 国立感染症研究所, 血液・安全性研究部, 主任研究官 (80593813)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス応答 / HTLV-1 / ATL / 成人T細胞白血病 |
研究実績の概要 |
本研究では、小胞体ストレス誘導を標的としたATL発症予防薬の開発を目指し、小胞体ストレス誘導がATL発症予防の標的となる可能性と、MK-2048の抗HTLV-1薬としての有効性を明らかにする。 これまでに、HIVインテグラーゼ阻害剤であるMK-2048が、HTLV-1感染細胞株の増殖を抑制すること、及びHTLV-1感染キャリアの感染細胞では小胞体ストレス応答(UPR)の調節因子であるGRP78の発現が、非感染細胞と比較して低下している事を明らかにしており、HTLV-1感染細胞は小胞体ストレスに対して脆弱であることが示唆された。そこで今年度は、HTLV-1感染キャリア末梢血を収集し、感染細胞と非感染細胞が混在しているPBMCを用いてMK-2048の抗HTLV-1効果について検討した。 HTLV-1感染キャリア末梢血よりPBMCを分離し、MK-2048を添加して培養すると、総細胞数には影響を与えずにプロウイルス量の上昇を抑制するとともに、HTLV-1感染T細胞(CD4+, CADM1+)特異的に小胞体ストレス性アポトーシスのマーカーであるCHOPの発現を誘導し、アネキシンV 陽性細胞の割合も非感染T細胞(CD4+, CADM1-)に比べ有意に増加させることが明らかとなった。 以上の結果より、MK-2048は非感染細胞には影響与えずに、HTLV-1感染細胞特異的にUPRを活性化してアポトーシスを誘導すること、ATL発症のリスクファクターとされるプロウイルス量の上昇を抑えることが明らかとなり、ここまでの結果を論文にまとめて報告した(Blood Adv. 2020 May 12;4(9):1845-1858)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、HTLV-1感染キャリア検体を用いた解析を計画し、MK-2048の抗HTLV-1効果の検証とHTLV-1感染細胞で発現変動しているUPR関連遺伝子の同定を目標に研究を行なった。 MK-2048の抗HTLV-1効果については、HTLV-1感染キャリア末梢血由来のリンパ球にMK-2048を作用させ、免疫染色とフローサイトメーターによる解析から、感染細胞特異的な小胞体ストレス性アポトーシスの誘導を明らかにし、ATL発症のリスクファクターとされるプロウイルス量の上昇抑制効果についても明らかにした。 HTLV-1感染細胞で発現変動しているUPR関連遺伝子の同定については、検体の収集に時間を要したため、次年度に予定していたHTLV- 1感染細胞移植モデルマウスでの検討を先行して開始した。 当初の計画と前後したものの、MK-2048による感染細胞特異的な小胞体ストレス性アポトーシスの誘導を明らかにし、次年度に予定していたHTLV-1感染細胞移植モデルマウスでの検討についても着手できたことから、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
HTLV-1感染細胞の腫瘍化によるモノクローナルな増殖はATL発症の鍵となる。今後は、今年度より着手しているHTLV-1感染細胞移植モデルマウスでの評価系を用いて、MK-2048の抗HTLV-1効果、及び安全性についての検討を進める。具体的には、HTLV-1感染細胞移植モデルマウスに定期的にMK-2048を投与し、腫瘤サイズをコントロール群と比較し有効性を評価する。同時に腎臓・肝臓・脾臓等に与える影響を病理学的に評価して安全性についても明らかにする。 また、HTLV-1感染キャリア末梢血由来リンパ球のシングルセル解析を行い、HTLV-1感染により発現変動するUPR関連遺伝子を特定し、小胞体ストレス誘導がATL発症予防の標的となりうることを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたHTLV-1感染細胞で発現変動しているUPR関連遺伝子の同定が、検体の収集に時間を要した為実施できなかった。引き続き検体取集を行い、次年度に実施予定である。
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