成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)は既存の化学療法には抵抗性を示すことが多く、新規HTLV-1感染症治療薬の開発は重要な課題である。我々は、HIV-1インテグラーゼ阻害剤MK-2048がHTLV-1感染細胞の増殖を特異的に抑制すること、HTLV-1感染細胞では小胞体ストレス抵抗因子GRP78の発現量が低下していること見出しており、HTLV-1感染細胞は小胞体ストレスに対して脆弱であることが示唆された。 そこで本研究では、MK-2048の抗HTLV-1薬としての有効性ならびに安全性を評価するとともに、HTLV-1感染と小胞体ストレス応答制御の関連性の解明を試みた。 その結果、MK-2048はHTLV-1感染細胞特異的に小胞体ストレス応答のPERK-ATF4-CHOP経路を活性化してアポトーシスを誘導し、ATL発症のリスクファクターとされるプロウイルス量の上昇を抑えることが明らかになった。これらの結果から、MK-2048は既存の治療薬とは異なる機序でHTLV-1感染細胞を特異的に排除する新規抗HTLV-1薬候補と考えられた。 さらに、PERK-ATF4-CHOP経路を活性化するリード化合物の中から、HTLV-1感染細胞に対してより低濃度で小胞体ストレス性アポトーシスを誘導する化合物を見出し、ATL細胞を異種移植したモデルマウスを用いて安全性と有効性の評価を行ったところ、腫瘍形成速度、腫瘍重量共に抑制傾向が認められ、UPR異常はHTLV-1感染症の新たな標的として期待された。
|