研究課題
成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)細胞では、T細胞受容体(TCR)-NF-kB経路の遺伝子変異と構成的活性化により、腫瘍増殖と治療抵抗性を獲得している。これまでの研究で、骨髄腫細胞において、セリンスレオニンキナーゼTAK1(MAP3K7)はNF-kappaB経路やp38MAPK経路などのシグナル伝達経路を調節するマスター調節因子であることを研究代表者は見出してきたが、ATL細胞株(TL-Om1、Hut102、Su9T01)において、shRNAを用いたMAP3K7発現抑制では、ATL細胞の増殖抑制効果は乏しかった。しかし、NF-kB経路の転写因子RELAの発現抑制は著明なATL増殖抑制を認めた。さらに、TAK1とIkkaを阻害するLL-Z1640-2は濃度依存的にATL細胞株にアポトーシスを誘導した。NSGマウスにTL-Om1を皮下移植するATLマウスモデルにおいて、LL-Z1640-2の腹腔内隔日投与(20 mg/kg)は腫瘍増殖抑制効果を発揮した。以上の結果から、ATLにおいては、NF-kB経路でのIkkaやRelAの治療標的因子としての可能性を見出した。セリンスレオニンキナーゼPIMは、NF-kB経路やJAK-STAT3経路で制御されるがん原遺伝子である。正常細胞(末梢血単核細胞)と比較すると、PIMキナーゼファミリーの中でもPIM1が高発現しており、PIM1発現抑制はATL細胞株の増殖を抑制した。また、PIM阻害薬PIM447は、ATL細胞の増殖抑制効果を濃度依存的に発揮した。LL-Z1640-2処理またはRELA発現抑制は、ATL細胞のPIM1発現を抑制し、RelAによるPIM1転写制御が考えられた。さらに、PIM447処理またはPIM1発現抑制は、RelAの発現抑制を来たし、ATL細胞におけるNF-kB-PIM1ポジティブフィードバック機構の存在が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、ATLの治療抵抗性の克服とHTLV-1感染伝播の阻止を目的として、TAK1-NF-kB経路とPIM1を治療標的に据えながら、ATL細胞とHTLV-1感染細胞における役割解明を進めている。今年度は、NF-kB経路阻害剤LL-Z1640-2による高い抗ATL活性をin vitroとin vivoで確認し、そのNF-kappaB経路はPIM1発現制御に関わっていることを明らかにした。また、NF-kB経路阻害によるHTLV-1感染伝播の評価についても実験系を確立できており、HTLV-1感染伝播に関する評価を次年度は進める予定である。以上のように、本研究は当初の計画通り、ATL細胞の治療抵抗性の克服のみならず、HTLV-1感染伝播機構にも焦点を当てた研究を進めており、研究の達成度は概ね順調に進んでいると思われる。
初年度の研究で明らかとなったATL細胞におけるNF-kB経路とPIM1の相互の制御機構の解明を進める。RelAのPIM1プロモーター領域への結合をChIP-Q-PCR法で検討する。RelAまたはNF-kB経路構成因子について、PIM1のリン酸化修飾を中心とする翻訳後修飾の解析を行う。TCR-NF-kB経路の下流では転写因子IRF4とc-MycがATL細胞の生存増殖に重要な役割を担っているとされており、これらとPIM1の相互の関係についても検討を行う。また、ATL動物モデルを用いてLL-Z1640-2の有効性を実証したように、PIM447についても同様の検討を行う。LL-Z1640-2とPIM447の併用効果についても検証を予定する。HTLV-1感染伝播機構の解明を進める。初年度の予備検討で、HTLV-1 LTR導入細胞株H9/K30lucを用いたHTLV-1感染評価の実験系を確立している。LL-Z1640-2やPIM447でATL細胞株を処理し、そのATL細胞株とH9/K30lucの共培養後のルシフェラーゼを検出し、HTLV-1感染伝播への影響を検証する。ATL発症機序を明らかにするために、HTLV-1感染伝播後の細胞の増殖能とdormancyへの影響について検討を行う。具体的には、Jurkat細胞株や健常人末梢血単核細胞(PBMC)をHTLV-1感染細胞株と共培養後、T細胞分画の増殖能や、細胞表面CCR4, PD-L1や細胞内FoxP3, T-betなどの発現および細胞周期をフローサイトメトリーで解析し、HTLV-1感染の影響を検討する。また、細胞周期関連因子のcyclin DやCDK familyについても評価し、さらに抗腫瘍薬doxorubicinへの感受性を非感染Jurkat細胞と比較検討し、腫瘍dormancyと治療抵抗性の関連を検討する。
すべて 2020
すべて 学会発表 (1件)