研究課題/領域番号 |
20K17403
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
杉尾 健志 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 特別研究員PD (10870446)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 悪性リンパ腫 / 微小環境 / 免疫チェックポイント阻害薬 / イメージングマスサイトメトリー / オルガノイド |
研究実績の概要 |
末梢性T細胞リンパ腫( PTCL-NOS)の周囲微小環境プロファイリングをnCounterシステムによる遺伝子発現解析を用いて行った。その結果、先行研究の結果同様、B細胞、樹状細胞(DC)、マクロファージ関連遺伝子の発現プロファイルによって分類可能である事が確認された。 微小環境因子に乏しい予後不良群において抗アポトーシス機能をもつ癌精巣抗原であるBIRC5が高発現することを同定した。更に、ノックダウンや阻害薬によってT細胞性リンパ腫セルラインの細胞増殖が抑制されることを確認しており、新規治療標的として着目している。 多次元イメージングマスサイトメトリー(Hyperion system)を用いた微小環境因子の機能解析については、昨年度で解析系の確立を行った。免疫細胞分画のマーカー蛋白や、細胞増殖関連、アポトーシス関連蛋白に対する30種の免疫染色抗体について、ポジティブコントロール検体の多次元イメージングマスサイトメトリーのデータと、免疫組織染色の単染色のデータを比較し、PTCL-NOSの微小環境の機能解析を行うためのパネルを作成、染色条件の最適化や、画像データファイルの解析パイプラインの設定を行った。実際に、この解析系を用い、PD-1阻害薬が著明に奏効した再発PTCL-NOSの1症例を解析したところ、腫瘍細胞におけるPD-1/PD-L1シグナルが腫瘍細胞増殖と関連している可能性が示唆された。 微小環境因子の機能を検証する疾患モデルの確立について、PTCL腫瘍組織のin-vitro 3次元培養条件の検討や、免疫不全マウスへの患者腫瘍組織の異種移植を2症例で行っている。腫瘍細胞に関しては、短期間維持可能な培養条件を同定し、免疫不全マウスへの生着を確認している。ただし、微小環境中の免疫細胞のバランスは維持できておらず、今後の課題と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PTCL-NOSの微小環境プロファイリングについては、先行研究で確立した微小環境因子に基づく分類が再現できることを確認できている。今後はシングルセルRNAシークエンシングの解析も行い、より詳細な解析を行う予定である。 抗アポトーシス機能をもつ癌精巣抗原であるBIRC5が新規治療標的となることを同定し、阻害薬やノックダウンによる細胞増殖抑制効果を確認している。初年度の目標として、新規治療標的の同定は予定しておらず、期待以上の成果が得られてると考えられる。 微小環境因子の機能解析については、多次元イメージングマスサイトメトリーによる解析系を確立するという初年度の目標は既に達成されており、2年度の目標である実際の症例の解析にも着手できている。微小環境因子の機能を検証するモデルの作成についても、免疫不全マウスへの異種移植やvitroでの培養を行っており、現時点で腫瘍細胞の維持には成功している。しかし、微小環境中の免疫細胞のバランスの維持には成功しておらず、今後の課題と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
シングルセルRNAシークエンシングを用いた解析を追加する事で、腫瘍浸潤正常T細胞のプロファイリングも行う。又、予後情報が付随したPTCL-NOS検体の遺伝子発現解析を追加で行い、微小環境因子と予後の関連について、先行研究で同定された予後予測モデルの検証を行う。 BIRC5阻害薬の効果を免疫不全マウスへの患者腫瘍組織の異種移植モデル(PDX)を用いて検証を行う。 多次元イメージングマスサイトメトリー解析による微小環境因子の機能解析について、昨年度確立した系を用いて、より多くの症例解析を行う。特に、PD-1阻害薬が奏効した症例と抵抗症例において、腫瘍細胞上のPD-1発現や、腫瘍細胞とPD-L1陽性細胞の距離が腫瘍細胞や免疫細胞の蛋白発現に与える影響について解析する。この解析により、PTCL-NOSにおけるPD-1阻害薬のバイオマーカーが同定可能である。 周囲微小環境因子を含めたPTCL-NOSの疾患モデル作成については、サイトカインや半固形培地の配合条件を変化させ、微小環境中の免疫細胞バランスを維持できる、最適条件を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
イメージングマスサイトメトリーの機械故障やサンプル収集の関連で、初年度にイメージングマスサイトメトリーの金属標識抗体購入のために昨年度確保していた財源を予定していたほど使用しなかった。その分、今年度複数サンプルの解析を行う予定であり、そのための抗体購入が必要である。
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