研究課題/領域番号 |
20K17407
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
櫻井 政寿 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (20570146)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒト造血幹細胞 / 生体外増幅 / 高分子ポリマー / RUNX1遺伝子 |
研究実績の概要 |
RUNX1遺伝子 は造血発生や造血幹細胞機能・血球分化に必須の役割を果たしている。今までRUNX1遺伝子は多くの研究者が解析を行ってきたが、1)マウスとヒトでは表現型が異なるため差異が示唆されているが、ほとんどの解析はマウスによるもの、2)疾患特異的iPS細胞から誘導したヒト造血前駆細胞は、真の意味での造血幹細胞ではないことから、免疫不全マウスへ移植しても生着せず、それ以上の解析が困難、などの限界があった。近年、血清やアルブミンの代わりにポリビニルアルコール(PVA)を用いたマウス造血幹細胞の効率的かつ長期的な培養方法が開発された。本研究ではポリビニルアルコール(PVA)を用いた造血幹細胞の生体外培養技術を用いて免疫不全マウスへの移植実験可能な造血幹細胞の増幅を行い、その細胞を用いて、ヒトRUNX1の機能解析を行うことを目的としている。 本研究では、まずヒト造血幹細胞がマウスと同じようにPVAで生体外増幅可能かどうかを明らかにする。具体的には、臍帯血由来ヒト造血幹細胞をPVA含有培地で培養し、培養後の細胞を免疫不全マウスに移植し、自己複製能と多分化能という幹細胞の性質を保持していることを明らかにする。さらにその技術を用いて、正常ヒト造血幹細胞とRUNX1遺伝子変異を持つ疾患の造血幹細胞をそれぞれ増幅させ、コロニー形成実験や免疫不全マウスへの移植実験を行い、比較を行うことによって、ヒトRUNX1遺伝子の自己複製能と多分化能への影響を明らかにする。 2020年度には、造血幹細胞がマウスと同じようにPVAで生体外増幅可能かどうかを検討し、PVAをベースとしながらもマウスとは異なる方法でヒト造血幹細胞の生体外増幅に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
過去に報告されたマウス造血幹細胞で報告された培養方法は、PVAにサイトカイン(SCF・TPO)を添加した培地を用いていた。同じ培地でヒト造血幹細胞の培養を行うと、1週間程度は培養可能であったが、それ以上の長期間培養は困難であった。従ってまずこの培養方法を検討し直すことから開始した。 マウスとヒトの差異を明らかにするため、上記条件における双方の造血幹細胞のシグナル解析を行った。結果としてPI3K/AKT経路がマウスと比較しヒトでは有意に低下していることが明らかとなった。この結果に基づき、PI3K刺激薬を添加することにより、ヒトCD34陽性細胞の増幅効率が有意に改善した。以前よりSCFはPI3K/AKT経路を介して細胞周期を回してることが知られており、PI3K刺激薬を加えた状態で、SCFを抜いたところ、ヒトCD34陽性細胞の増幅効率は低下せず、本条件下ではSCFは不要であることが明らかになった。次に、近年臨床で広く用いられているTPO受容体作動薬をTPOの代わりに用いたところ、ヒトCD34陽性細胞はTPO受容体作動薬を用いたほうが増幅効率が増すことが明らかになった。しかしこの方法では、1週間は安定して増幅するものの、2週間が経過するとCD41陽性細胞に分化してしまった。さらに長期に安定した培養を行うため、その培養液に造血幹細胞培養に有用と報告されている小分子UM171を添加した。すると、ヒトCD34陽性細胞は1か月間の長期にわたって生体外で増幅可能であった。 培養後細胞の造血再構築能を明らかにするため、免疫不全マウスに培養前後それぞれの細胞を同数移植した。すると、培養前の細胞と比較し、培養後の細胞のほうが有意にヒトキメリズムは高値であった。以上より、サイトカインを用いない長期安定した新たなヒト造血幹細胞の培養方法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
マウス造血幹細胞の培養方法がそのままヒトには転用できないことが判明したが、上記の通り、新たな培養手法を開発することによって、それを克服することができつつある。 今後は、この技術を用い、正常ヒト造血幹細胞とRUNX1遺伝子変異を持つ疾患の造血幹細胞をそれぞれ増幅させ、コロニー形成実験や免疫不全マウスへの移植実験を行い、比較を行うことによって、ヒトRUNX1遺伝子の自己複製能と多分化能への影響を明らかにする予定である。正常ヒト造血幹細胞については、臍帯血CD34陽性細胞の購入を検討している。一方、RUNX1遺伝子変異を持つ疾患の造血幹細胞については、当該遺伝子異常をもつ患者サンプルの使用を検討しているが、採取量が少ない可能性、あるいはそもそもRUNX1遺伝子変異をもつために造血幹細胞の自己複製能に致命的な影響を及ぼし、生体外増幅できない可能性もありうる。もしそのような事態となった場合は、計画を変更し、今回確立しつつある全く新しいヒト造血幹細胞の生体外増幅のさらなる改良を求めていくことも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果である。未使用額については、2021年度に消耗品購入に充てる予定である。
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