研究課題/領域番号 |
20K17421
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
土田 優美 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (90793597)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 全身性エリテマトーデス / 妊娠 / マイクロキメリズム |
研究実績の概要 |
妊娠中、胎児の細胞は一部母体に移行し、その後母体内で何十年にもわたって生着、生存し続けることが知られており、胎児性マイクロキメリズムと呼ばれる。全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患は女性の方が発症率が多いものが多く、その一因としてマイクロキメリズムが考えられている。 SLE女性の妊娠では、妊娠高血圧症候群や流産などの妊娠合併症が多く、また妊娠・出産に伴い疾患活動性の悪化を認めることも多い。その原因の一つとして、胎児性マイクロキメリズムの量的・質的な異常、もしくは、胎児性マイクロキメリズムに対する免疫応答の異常が関与しているとの意見もある。 今回、胎児性マイクロキメリズムがSLEなどの自己免疫疾患の活動性や妊娠合併症に与える影響について検討をした。まず、どのような細胞が自己免疫疾患患者の末梢血でマイクロリズムを起こしているか推測するために、非妊時の女性の末梢血の免疫細胞サブセットのRNA-seqデータを使用し、女性は通常保有せず、マイクロキメリズムに由来すると考えられるY染色体上の遺伝子の発現を各サブセットで比較した。Y染色体上の遺伝子のうち、DDX3Yは女性サンプルにおいても一定の発現量が見られるため、マッピング時のエラーではなく、実際にマイクロキメリズムを反映している可能性が高いと考えた。DDX3Yの発現はB細胞、特にCD27-IgD-B細胞やIgD-CD27+メモリーB細胞で高かった。SLEや筋炎、シェーグレン症候群などのサンプルと健常人を比較したところ、有意な差は認めなかった。今後、妊娠中・産褥期のサンプルも含めた検討が必要と考えられ、また、胎児性マイクロキメリズムに対する免疫応答についても検討が必要と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胎児性マイクロキメリズムが、全身性エリテマトーデス(SLE)における妊娠合併症や疾患活動性への影響を検討するために、胎児由来の細胞がどの程度存在するか、その細胞種は何なのか等のマイクロキメリズムの量的・質的な異常について、まずは検討が必要と考えた。そのため、2020年度は、SLEにおけるマイクロキメリズムの質的・量的異常の有無を中心に検討を行った。 女性が通常有さないY染色体の遺伝子の発現はマイクロキメリズムを反映している可能性があり、この点に着目して、免疫細胞の各サブセットのRNA-seqデータを解析することにより、健常人およびSLE女性において、B細胞、特にCD27-IgD-B細胞やIgD-CD27+メモリーB細胞では、マイクロキメリズムが多く認められることが推測された。そして、その程度について、健常人、SLEや筋炎、シェーグレン症候群など他の自己免疫疾患の女性で比較することができたが、有意な差は見られなかった。 上記の検討により、今後妊娠中・産褥期のサンプルについての検討が重要であること、および、胎児性マイクロキメリズムに対する母体の免疫応答の異常も含めて検討が必要があることが明らかになり、今後の研究の方向性をより明確となった。 今後は妊娠中・産褥期のサンプルを中心に解析し、また、胎児性マイクロキメリズムに対する母体の免疫応答も含めて検討を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の検討により、非妊時の末梢血の免疫細胞において、マイクロキメリズムを起こす細胞は、B細胞に多く、特にCD27-IgD-B細胞やIgD-CD27+メモリーB細胞で高いことが判明した。しかし、これらの細胞種におけるY染色体遺伝子の発現量はSLEと健常人で有意な差が認められず、マイクロキメリズムの量的な異常については、少なくとも妊娠からある程度経過したサンプルでははっきりとしなかった。 そのため、SLE合併妊娠の妊娠合併症や妊娠中・産褥期のSLE再燃への胎児性マイクロキメリズムの関与について検討するには、妊娠中・産褥期のサンプルを中心に回収する必要があると考えられる。そのため、今後は妊娠中および産褥期のサンプルを経時的に解析することにより、妊娠中の胎児性マイクロキメリズムの変化、および、それに伴う妊娠合併症の発症とSLEの活動性との関連について検討する予定である。 また、SLE女性では、胎児性マイクロキメリズムに対する免疫応答の異常がある可能性も考えられるが、まだこの点についての検討は不十分である。そのため、胎児性マイクロキメリズムの程度と免疫学的に重要な遺伝子の発現量、SLEの疾患活動性や妊娠合併症などとの関連などを検討することにより、マイクロキメリズムに対する免疫応答の異常についても検討を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の流行状況も踏まえ、新規検体の採取・解析より、既存データの再解析を優先したため、次年度使用額が生じた。既存データの解析により、妊娠中のサンプルの重要性など、今後研究を進める方向性が明らかとなったため、それを踏まえて、今年度より多くのサンプルを解析する予定である。
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