ネクロトーシスは細胞からdamage associated molecular patterns (DAMPs)の放出を伴う、炎症誘導性の細胞死と知られる。私たちは、多発性筋炎(PM)患者筋組織、マウスPMモデル(CIM)、PMのin vitroモデルを用いた多角的な解析より、PMにおける傷害筋細胞がネクロトーシスに至ることを突き止めている。 2020年度には、CIMにおけるネクロトーシス阻害剤の治療効果を確認し、さらに、ネクロトーシスに至った細胞から放出される代表的なDAMPsであるHMGB1が、PM患者あるいはCIMの壊死筋細胞に発現亢進していることを確認した。さらに、CIM血清中のHMGB1濃度は著明に上昇し、ネクロトーシス阻害治療にてその上昇が抑制された。in vitroモデルにおいても、筋管細胞と細胞傷害性Tリンパ球(CTL)との共培養によって培養上清中のHMGB1の濃度が上昇し、ネクロトーシス阻害剤の併用にてその上昇が抑制された。さらに、CIMに対する抗HMGB1抗体治療が筋力低下や組織学的な筋炎を改善させた。以上よりPMにおいて筋細胞がネクロトーシスに至り、HMGB1の放出を介し更なる炎症を誘導することが示された。 2021年度は、ネクロトーシス制御を介した筋力や炎症の改善機序について更に追及を試みた。 まず、ネクロトーシス阻害はCIMの筋力を急速に改善させ、その機序としてERストレスに着目した。CIM筋におけるERストレスマーカーの発現を免疫染色にて検証したが、ネクロトーシス阻害の有無で明らかな差異を認めなかった。また、in vitroモデルにおけるネクロトーシスと炎症、細胞代謝など広範な分子経路の関与をRNA-seqにより解析を試みたが、共培養から筋管細胞のみを高純度かつ低ダメージに分離することが困難であり、更なる条件検討や手法の改善が必要と判断した。
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