研究課題
これまで、マウスT細胞クローン系統のTh1/Th2タイプの違いは、同時にステロイド抵抗性/感受性、遅発型喘息誘発性/不顕性、好中球浸潤優位/好酸球浸潤優位の性状の差異を示すことを明らかにしてきた。通常、ステロイド感受性を示すT細胞クローンは、低用量グルココルチコイドの培養条件において増殖が抑制される。特にステロイド感受性Th2クローンにおいて、高用量グルココルチコイド下では抗原刺激を行っても増殖がほぼ完全に抑制され、やがて死滅に至る。一方で、ステロイドに対し感受性を示すT細胞クローンが何らかの機作をきっかけとして、ステロイド抵抗性を示す現象が確認された。これらは高い抵抗性と持続性を示すTh1系統と、IL-2要求性が高くしばしば感受性と抵抗性の両方を示すTh2系統に分かれた。Th2クローン系統のステロイド抵抗性は一過性かつ偶発性であり、抵抗性惹起におけるシグナル経路や感受性への復帰の機作および抵抗性系統の樹立について、さらなる調査が必要である。また、ステロイド抵抗性Th1クローンにおいて、細胞培養下の高用量デキサメタゾンがIFN-γ産生を低下させたにもかかわらず、細胞増殖に影響をもたらさなかった。また、一部のTh1系統において、カルモジュリン、PI3k、ITKの経路を標的とする細胞活性化の阻害効果が、ステロイド感受性Th2クローン系統より大きく低下していることが認められた。これらについて、T細胞クローン系統の特性の変化がこれまで得られた動物モデル上の性質即ち遅発型喘息反応の惹起や気道過敏性の亢進において、如何に変化するかは明らかにされていない。他の分子標的よりさらなるステロイド抵抗性の機序の解明に迫るとともに、ステロイド抵抗性/感受性の違いによるサイトカイン産生プロファイルの変化と喘息の病態への関与を、in vitro実験系を中心に探る。
2: おおむね順調に進展している
Th2クローン系統について、高用量デキサメタゾン下で高い生存性を示す亜系統を複数選抜した。デキサメタゾンおよび各種分子標的治療薬によるT細胞活性化シグナルの抑制効果について、細胞増殖とサイトカイン産生からプロファイルしている。一方、Th2クローン系統のステロイド抵抗性は一過性・偶発性であり、抵抗性惹起の機作や系統樹立について、さらなる調査を並行して実施している。また、動物モデルにおいて遅発型喘息反応を惹起しないステロイド感受性Th2クローン系統が、ステロイド抵抗性の向上とともにサイトカイン産生パターンや他の機序の治療効果への抵抗性を変化させているか、アッセイを試みている。さらに現在、T細胞クローンの特性の変化が喘息反応の惹起へ影響しているかin vitroで確認するため、平滑筋細胞の収縮アッセイの実験環境の構築を行っている。平滑筋の収縮要因は気温、カルシウム/カリウムイオン濃度、pHなど多岐に渡る。既報の手法よりさらに高精度の収縮活性プロファイルを可能とするため、気管支平滑筋細胞系統の選別、アッセイ条件の検証を行っている。
昨今、動物の権利向上や倫理的側面からなるin vivo(動物モデル)実験への風当たりや法制度に伴う設備維持の高度・高水準化により、代替的なin vitro(試験管内)実験モデルが推奨されている。平滑筋の収縮を伴う病態のin vitro実験モデルとしては、培養平滑筋細胞をコラーゲンゲル中に包埋したアッセイ系が知られ、専用のコラーゲンゲル試薬ともども普及が進んでいる。また、我々はこれまでも動物モデルの実験を縮小する一方、代替的なヒト培養平滑筋細胞およびマウス初代培養平滑筋細胞を用いたコラーゲンゲルのアッセイ手法について報告してきた。これらはin vivo実験において遅発型喘息惹起するT細胞クローン系統が、in vitro実験においても同様に抗原特異的T細胞産生性の因子がIgE非依存的に気道収縮を惹起させることを示唆してきた。一方、種々の収縮因子の交絡要因を完全に排除し、因子の特定に至る作業は途上であり、また、遅発型喘息反応において、平滑筋の収縮が等張性、等尺性でどのように寄与しているか不明な点も多い。そのためにコラーゲンゲル収縮アッセイを気流閉塞における等張性収縮の指標として評価する。遅発型喘息反応を惹起しないステロイド感受性Th2クローンが、ステロイド抵抗性の向上とともに喘息反応への機序にも影響を与えていないか、各薬剤の治療効果とともにin vitro実験において確認する。
先に申請した通り、昨今の新型コロナ感染症流行下および動物実験環境の変更において一部計画に変更・遅延があった。次年度の計画として、in vitroアッセイ系に用いる培養細胞および分子標的治療薬、消耗品の実験器具、培地・試薬類を計上する。
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日本薬理学雑誌
巻: 157(5) ページ: 293-298
10.1254/fpj.22027