ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するボツリヌス毒素は、全身の筋弛緩から重症例では致死的な呼吸失調に至る神経症状を引き起こす。腸管ボツ リヌス症では、腸管に定着したボツリヌス菌に宿主は長期間晒されるが、毒素以外の菌体成分がボツリヌス症に与える影響は全くわかっていない。一方、細菌が分泌する膜小胞(membrane vesicle: MV)が、細菌毒素の運搬や宿主の免疫系の調節に重要な役割を果たすことが明らかになってきている。そこで本研究では、 ボツリヌス菌および近縁のクロストリジウム属細菌が産生するMVが宿主に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 当該年度はボツリヌス菌4株、比較対象としてボツリヌス菌に近縁のC. sporogenes 1株、宿主に有益な腸内細菌であるC. scindens2株からMVを精製し、哺乳類細胞に対する影響を解析した。7菌株由来のMVは哺乳類細胞株に対してそれぞれ異なる強さで炎症性サイトカインの発現を誘導し、その誘導能は菌株よりも細胞株の種類に依存していた。また、MVは今回の実験条件下ではCaco-2およびRAW264.7細胞に対して障害性を示さなかった。MVによるサイトカイン誘導はMyD88/TRIFシグナルに依存的であり、個別のTLRでは少なくともTLR1/2/4に依存的であった。また、RAW264.7細胞においてMVはアクチン重合依存的すなわち膜ラフリングを介した貪食によって取り込まれたが、アクチン重合阻害はサイトカイン誘導を阻害しなかった。一方、ダイナミンおよびPI3Kの阻害ではサイトカイン誘導が阻害されたことから、TLRの下流でこれらの因子が重要であると考えられた。
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