研究課題/領域番号 |
20K17463
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
田中 幸枝 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (10197486)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ヒトメタニューモウイルス / インターフェロン / アクセサリー蛋白質 |
研究実績の概要 |
ヒトメタニューモウイルス(HMPV)は小児や高齢者に下気道感染症を引き起こしやすいため,有効なワクチンや治療法の開発が望まれている.その一連の研究として,HMPVではインターフェロン抵抗性(抗IFN能)を担うウイルス蛋白質の研究が進められている.抗IFN能を担うウイルス蛋白質を発現しない組換えウイルスは弱毒化する.そのため,そのウイルス蛋白質やそれが関わる宿主因子はワクチンや治療薬の恰好の標的となる.しかし,現在の欠損ウイルスは抗IFN能以外の増殖に関わる機能まで喪失するため,十分な量のウイルスを得ることは難しい. そこで本研究では,HMPVの抗IFN機構の全容を解明し,その情報をもとに抗IFN能のみを欠失した組換えウイルスをデザインする.そして,HMPV感染における抗IFN能の役割,抗HMPV免疫におけるIFNの重要性を明らかにし,ワクチンや治療薬の開発のための情報を入手する. 2020年度は,既に報告されているTLR7/9シグナル抑制機構に加えて,新たにRIG-Iシグナルを抑制する抗IFN能が存在することを明らかにした.そのメカニズムは,RIG-Iの活性化を抑制することによって下流シグナル分子への情報伝達を遮断するものであった.次に,抑制に必要なウイルス蛋白の領域を限局し,増殖に関わる領域とオーバーラップしないことを明らかにした.さらに,このウイルス蛋白を発現しない組換えウイルスの感染を野生型の感染と比較し,RIG-Iシグナルの抑制が解除されていることを確かめた.以上の結果から,HMPVにはRIG-Iシグナルを抑制する抗IFN能が存在し,それは増殖に関わる機能と分離できることを明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の研究計画は,以下のとおりである.①これまでに調べられているTLR7/9シグナル抑制機構(抗TLR7/9能)以外の抗IFN能について調べる.②計画①で明らかにできた新たな抗IFN能のメカニズムを調べる.③新たな抗IFN能を担うウイルス蛋白の必須領域を決定し,増殖に関わる機能と分離できるか検討する.④計画①~③の情報から,抗IFN能のみを欠失した組換えウイルスをデザインする.⑤計画④で作製した組換えウイルスを用いて,ワクチンや治療薬の開発のための基盤情報を入手する. 2020年度は計画①,②を実施し,HMPVのウイルス蛋白質にRIG-Iの活性化を阻害する能力があることを明らかにした(抗RIG-I能).次に計画③に従い,ウイルス蛋白の抗RIG-I能に必要な最小領域を決定することによって,ウイルスの増殖を損なわずに抗IFN能のみを欠失させられる可能性を示した.さらに,このウイルス蛋白質を発現しない組換えウイルスの感染実験から,I型IFNシグナルとNF-κBシグナルを抑制できなくなっていることを確かめた.2020年度は①~③の計画をおおむね達成でき,現在,計画 ④,⑤に着手している.
|
今後の研究の推進方策 |
増殖に関わる機能と分離できる抗IFN能が存在することを明らかにできたので,今後は抗IFN能のみを欠失した組換えウイルスを作製し,HMPVの増殖や病原性における抗IFN能の役割を調べていく予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で参加予定していた学会が開催されなかったため,その分の予算を翌年度に繰り越した. 研究計画がおおむね順調に進んでいるので,翌年度の物品費に合わせて使用する予定である.
|