ヒトメタニューモウイルス(HMPV)は、ヒトRSウイルスとならんで乳幼児に下気道感染症を起こしやすいため、有効なワクチンや治療薬の開発が望まれている。それらの標的の一つとして抗ウイルス免疫において中心的な役割を担うインターフェロン(IFN)に抵抗性(抗IFN能)を示すHMPV M2-2蛋白質の研究が進められている。しかし、現在のM2-2蛋白質欠損HMPVは抗IFN能以外の増殖に関わる機能まで喪失するため、十分な量のウイルスを得ることは難しい。 本研究では、HMPVの抗IFN機構の全容を解明し、その情報をもとに抗IFN能のみを欠失した組換えウイルスをデザインする。それによって、HMPV感染における抗 IFN能の役割、抗HMPV免疫におけるIFNの重要性を明らかにし、ワクチンや治療薬の開発のための情報を入手する。当初、既報のM2-2蛋白質の2つの機能(抗TLR7/9能とウイルスの増殖調節能)を分離するために、欠失または点置換変異を施し、ウイルス増殖には影響がなく抗TLR7/9能のみを喪失する変異M2-2蛋白質を作製する計画であった。しかし、解析過程で新たに抗RIG-I能を見出したので、計画を変更して抗RIG-I能の解析を行った。前年度までに、M2-2蛋白質がユビキチンリガーゼであるTRIM25と結合してRIG-Iのポリユビキチン化を抑制し下流のMAVS分子へのIFN産生シグナルを遮断することを明らかにした。さらに、欠失M2-2蛋白質を用いて抗RIG-I能の責任領域を決定した。2023年度は、責任領域に点置換変異を施したM2-2蛋白質を作製し抗RIG-I能と増殖調製能を評価した。その結果、増殖調節能には影響を及ぼさず抗RIG-I能を喪失した変異M2-2蛋白を作製できた。これらは抗TLR7/9能も喪失していたので、有望な弱毒生ワクチンの候補になると推定された。
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