研究課題/領域番号 |
20K17464
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
堀場 千尋 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任助教 (40844907)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 次世代シークエンサー / 新生児敗血症 / マイクロバイオーム / 感染症診断 / 微生物叢 |
研究実績の概要 |
新生児敗血症の初期症状は非特異的症状であるため、呼吸障害を呈し治療を必要とした新生児患者を解析対象としてサンプル収集を行なった。サンプルは、感染症診断や臨床評価に必ず採取され、かつ研究のために新規で採取する必要のない血液と胃液を選択した。出生直後の新生児呼吸障害の一部は子宮内感染あるいは垂直感染で引き起こされる。出生直後の新生児の胃液は主に羊水を含み、子宮内感染を評価できるため、出生直後の胃液を血液と同様に解析する検体種として選択した。本研究に対して保護者の同意がとれた新生児呼吸障害患者より採取された血液検体、胃液は、DNA抽出後、次世代シークエンス解析のためのDNAライブラリー調製が行われた。検出対象をより網羅的にするため、シークエンス方法はショットガンシークエンス法を選択した。得られたDNAライブラリは、ショートリードシークエンサーであるHiSeq(illumina)によりシークエンスされた。得られたシークエンスデータはメタゲノム解析パイプラインPATHDETにより、ホストゲノムデータの除去と微生物ゲノムデータベースへの参照を行うことで、微生物リストとして出力された。得られた微生物リストを患者の臨床経過、サンプル種との関連を解析した。クラスター解析により、出生直後の胃液微生物叢に関しては有意に3群に分類された。現在各群の微生物叢を構成する各微生物の病原性や微生物叢中での役割、新生児敗血症発症への影響について検討中である。また、敗血症ショックとなった乳児2例の血液と髄液に対して同様の解析を行なったところ、B群溶血連鎖球菌(GBS)を髄液より検出した。この2例は発症時の細菌培養検査ではGBSの検出ができなかったため、従来法で診断困難であった感染症症例に対して、次世代シークエンス解析による微生物検出が有用な方法である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)検体・臨床情報の収集 新生児呼吸障害患者30例の臨床検体ならびに臨床情報を収集できた。収集された症例数は目標症例数50例の60%を達成しており、引き続き症例収集を行う予定である。 (2)患者検体のショットガンメタゲノム解析 先行して収集した30例の血液と胃液に関してショットガンシークエンスを行なうことができた。しかしながら、検出された微生物叢中で新生児呼吸障害に関与する微生物は確定できていない。さらなる臨床経過と微生物叢構造の比較を行うことで、疾患との関連を検討する必要がある。 (3)血液中微生物ゲノム分布解析と病原微生物探索 血液微生物ゲノム分布解析の結果、Microcoleus、Phormidium、Nostoc等の採取現場や実験環境からのコンタミネーションが疑われる細菌種が高頻度で検出された。このような微生物をデータ解析で除外する手法の開発が必要である。現在、微生物叢を分類するソフトウェアが複数公開されており、これらを用いてコンタミネーションが疑われる微生物とそうでない微生物を分類する解析系の構築を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)病原微生物不明の新生児感染症症例の臨床検体からの病原微生物検出 前年度に引き続き、次世代シークエンス解析による微生物検出を行う。検体量が十分に確保できた場合は、DNA解析だけでなくRNA解析も追加で行う予定ある。これにより、細菌や真菌、DNAウイルスだけでなく、RNAウイルスも検索対象となるため、より網羅的な病原微生物検出が可能となる。 (2)血液、胃液以外の検体種のマイクロバイオーム解析 現在、もっとも臨床評価のため採取される頻度の高い血液と胃液を対象に解析を進めている。さらに重症度の高い症例の場合、髄液など感染症診断目的に追加で採取される場合が多い。これらのマイクロバイオームデータは新生児敗血症の重要な情報を含む可能性が高いため、今後、収集・解析予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
引き続き症例集積を行い、得られたサンプルに対して次世代シークエンス解析による病原微生物検索、マイクロバイオームの評価を行う。得られたデータは、現在保有するマイクロバイオームデータと比較され、新生児敗血症の発症予測因子を引き続き探索する。
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