インフルエンザの重症化は肺障害、脳症といった重篤な臓器障害を引き起こし、死亡率も高いことから問題になっている。特に高い頻度で続発する急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は病態形成に不明な点が多く、その治療成績は未だ十分ではない。インフルエンザからARDSを発症するケースは多く、その重症化因子の解明はインフルエンザの重症化、続発するARDSの予防に重要である。これまでにARDS患者では特徴的な細菌叢がみらえていることから、本研究では下気道に存在する細菌に着目しインフルエンザの重症化因子の探索を行ってきた。 これまでに重症ARDS患者ではブドウ球菌属、レンサ球菌属、腸内細菌科とナイセリア属を含むベータプロテオバクテリア網の細菌バランスの偏りが全身性の炎症状態の悪化に寄与している可能性が見られている。本計画の昨年度までにレンサ球菌属はインフルエンザウイルス複製の亢進に働き、ナイセリア属はインフルエンザウイルス複製の抑制を示すことが見られている。そこで、これら細菌属について、共存の影響を調べた。特定のレンサ球菌属細菌とナイセリア属細菌を共培養したところ各々が影響することなく、単独培養と同数程度増殖することがわかった。また、これら細菌属の培養上清を同時に刺激すると、ナイセリア属の抑制効果のみが現れ、レンサ球菌属による亢進が打ち消されることがわかった。共培養の結果と合わせると、ベータプロテオバクテリア網の細菌の減少によって、レンサ球菌属による亢進を打ち消す効果が減弱すると考えられ、ARDS発症・重症化に寄与する可能性がある。
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