研究課題/領域番号 |
20K17470
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
山崎 智拡 北海道医療大学, 医療技術学部, 講師 (10784829)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 性器クラミジア / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
Chlamydia trachomatis(性器クラミジア)は、世界中で1億2千万人もの感染者がいるとされる性感染症の原因細菌である。日本でも、厚生労働省の調査で、性器クラミジア感染者数は年間2万5千人程度が報告されている。また、性器クラミジア感染者の多くは無症候性であり、気付かぬうちに感染が拡大するため実際の感染者は報告者数よりもさらに多いと考えられている。加えて、一部の患者は病状が進行して骨盤内炎症性疾患や不妊の原因となることが知られている。さらに近年では、性器クラミジア感染は卵巣がんや子宮頸がんとの関連性も示唆されている。そのため、性器クラミジアの病態形成機構を解明することの社会的意義は大きいと考えられる。 一般に、活性酸素(ROS)の産生増加が、がん細胞の発生に関与していると考えられている。一方、性器クラミジア感染においても、感染細胞内ROSの産生が感染早期に増加し、感染後期に減少するなど、ROSの調節が行われていることが知られている。ROSは、NADPHオキシダーゼ(Nox)などの働きによって調節されていることも知られている。しかしながら、性器クラミジア感染における感染細胞のROS調節機構は明らかではない。 そこで本年度は、研究計画に沿って、性器クラミジア感染時のNox発現をリアルタイムPCRを用いて調査した。その結果、Nox遺伝子の発現については変化が見られなかった。一方、Nox阻害剤のDPIが性器クラミジアに与える影響を調査したところ、DPIによって、性器クラミジアの増殖は抑制されていた。加えて、ROS調節に関与する遺伝子のノックダウン細胞を作製し、現在性器クラミジアの増殖に与える影響を確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず研究計画に沿って、性器クラミジア感染時のNox発現について調査した。その結果、性器クラミジア感染においてNox発現に有意な変化は見られなかった。しかしながら、Nox阻害剤のDPIを加えると性器クラミジアの増殖が抑制されていることが確認された。Noxそのものではなく、阻害によって起こるROS変化が性器クラミジアの増殖に影響を与えている可能性が考えられた。 また、ROSの測定については、当初予定していた方法を用いて調査したが、測定がうまくいかず十分な結果が得られなかった。このことは、性器クラミジアの細胞内寄生性や細胞修飾機構が測定に何らかの影響を与えている可能性も考えられるが、現在別の測定方法で性器クラミジア感染細胞中のROSが測定できないかを検討している。 次に、ROS調節に関与する遺伝子のノックダウン細胞を作製し、現在性器クラミジアの増殖に与える影響を調査している。 上記のように、Nox阻害剤のDPIによって性器クラミジアの増殖抑制が見られたが、性器クラミジアはNox発現には直接影響を与えてはいないことから、Nox阻害剤による性器クラミジアの増殖抑制は、ROS産生を阻害することで起こっているのではないかと考えられた。そこで、別のROS産生を調節する試薬を用いて、性器クラミジアの増殖にどのような影響があるかを調査した。その結果、いくつかの試薬で性器クラミジアの増殖の変化が確認された。そのため、現在では別のROS産生を調節する試薬を用いて、性器クラミジアのROSの調節機構を精査するため研究を進めており、当初想定していた研究計画から多少の方向転換が生じてはいるが、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
性器クラミジア感染時にはNox発現に十分な変化は見られなかった。しかしながら、Nox阻害剤のDPIを加えると性器クラミジアの増殖が抑制されていることが確認された。このことから、Nox阻害剤のDPIによって、Noxが阻害され、間接的にROS産生を阻害することで、性器クラミジアの増殖に何らかの影響が与えられていることが示唆された。そこで、別のROS産生を調節する試薬を用いて、性器クラミジアの増殖にどのような影響があるかを調査したところ、いくつかの試薬で性器クラミジアの増殖の変化が確認された。そのため、別のROS産生を調節する試薬を用いて、性器クラミジアの活性酸素の調節機構の解明に向けて研究を進めている。 また、研究を遂行するための課題として、ROSの測定が当初予定していた方法を用いてもうまくいかず十分な結果が得られなかったことが挙げられる。このことは、性器クラミジアの細胞内寄生性や細胞修飾機構が測定に何らかの影響を与えている可能性も考えられるが、まだはっきりとしたことはわかっていない。しかしながら、性器クラミジア感染時のROSの量を知ることは、本研究を発展させるために重要であると考えられるため、現在別の測定方法で性器クラミジア感染細胞中のROSを測定できないかを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、参加予定だった学会が延期および中止などとなったため、旅費等の発生がなかったため、翌年度の学会にて使用する計画である。加えて、物品購入についても同様の理由から、実験で使用する消耗品の一部商品が品切れ品薄のため当該年度には調達できなかったため、翌年度に購入し、使用する計画である。
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