自然免疫において、マクロファージや樹状細胞の様な抗原提示細胞は微生物を認識して貪食し、その細胞内では食胞に微生物を内包して消化する。抗原提示細胞は微生物の消化断片を抗原としてT細胞に抗原提示して適応免疫を誘導する。結核の原因菌である結核菌や非結核性抗酸菌感染症の原因菌である病原性抗酸菌を貪食した場合では、食胞における消化を抑制することによって殺菌されずに細胞寄生を果たす。さらには、抗原提示も抑制するため、適応免疫の誘導も抑制する。しかしながら、どの様な分子機構によって食胞成熟や抗原提示が抑制されているかは不明である。 2023年度は、極長鎖脂肪酸鎖を持つスフィンゴ脂質を生合成する酵素であるセラミド合成酵素2 (CERS2)が非病原性抗酸菌の殺菌に関与することを証明するために、生化学的な解析や分子の局在解析を行った。ゲノム編集法によりCERS2を欠損したヒト急性白血病細胞株THP-1細胞をマクロファージ系に分化させた後に、抗酸菌を貪食させてタンパク質を抽出し、シグナル伝達機構やタンパク質の発現変動について調べたところ、糖鎖修飾に違いが見られるなどいくつかのデータが得られた。また、貪食や殺菌に伴ったスフィンゴ脂質代謝を調べるために脂質を抽出して薄層クロマトグラフィーにより分析したところ、一部のスフィンゴ脂質の発現に変動がある可能性を見出した。現在は、ヒト末梢血単球由来マクロファージをsiRNAで処理してCERS2をノックダウンさせた条件下において、抗酸菌を貪食させて検証を続けている。
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