研究課題/領域番号 |
20K17477
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
阿部 雅広 国立感染症研究所, 真菌部, 研究員 (10865174)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腸内細菌叢 / カンジダ属 / Candida glabrata / 腸球菌 / 嫌気性菌 / ステロイド / マウスモデル |
研究実績の概要 |
当該年度の研究実績として、まずカンジダ属播種が生じやすい・生じにくい抗菌薬群を評価し、特定に至った。具体的には、これまでに確立したステロイド投与下の腸管からのカンジダ属播種マウスモデルを用いて、Candida glabrataおよびCandida aurisを腸管内に感染させる実験を行い、各マウスの臓器への真菌播種量を計測したところ、グラム陽性菌が残存する抗菌薬の組み合わせ条件において真菌播種が多く、グラム陰性桿菌が残存する抗菌薬の組み合わせ条件において真菌播種が少ないことを特定した。また、グラム陽性菌が残存する抗菌薬条件群においては、真菌の播種と同時に細菌の播種が生じていることも確認され、播種した細菌をシークエンス解析したところ、腸球菌であることを特定した。これらの結果から、non-albicans Candidaの播種においては、グラム陽性菌 (特に腸球菌) が正の相互作用、グラム陰性桿菌が負の相互作用を有している可能性が示唆された。 上記結果をもとに、広域抗菌薬投与群、グラム陽性菌残存群、グラム陰性桿菌残存群の3群において、便や小腸・盲腸・大腸内容物をサンプルとしたメタゲノム解析を行い、群間比較を行なった。その結果、播種が少ない個体では腸管内のグラム陰性桿菌が優位であった一方、播種が多い個体では腸管内のグラム陽性球菌 (特に腸球菌) および嫌気性菌が優位という結果を認めた。これらの結果および臓器への播種実験からは、腸球菌および嫌気性菌が正の相互作用を有する細菌である可能性が考えられた。 その後、これらの結果をもとに、好気培養・嫌気培養を組み合わせることによって、マウス腸管内容物などから細菌の単離を試みた。結果として、複数のマウス由来の腸球菌・嫌気性菌の単離・保存に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度の実験計画としては、(1) 各種抗菌薬投与下のカンジダ属腸管内定着・臓器への播種につき、臓器および便中真菌量を計測し、定量的な評価・群間比較を実施する、(2) カンジダ属播種の生じやすい・生じにくい抗菌薬群を特定し、次世代シークエンスを用いた腸内細菌叢の網羅的解析を行い、群間比較を行う、の2点を予定していた。 (1)については、上記の通りCandida glabrataおよびCandida aurisを用いた、ステロイド投与下の腸管からのカンジダ属播種マウスモデル実験において、グラム陽性菌が残存する抗菌薬の組み合わせ条件において真菌播種が多く、グラム陰性桿菌が残存する抗菌薬の組み合わせ条件において真菌播種が少ないことを特定し、群間比較も行うことができ達成されたと考えられる。また、(2)についても、広域抗菌薬投与群、グラム陽性菌残存群、グラム陰性桿菌残存群の3群において、便や小腸・盲腸・大腸内容物をサンプルとしたメタゲノム解析を行い、群間比較を行ない、結果として、播種が少ない個体では腸管内のグラム陰性桿菌が優位であった一方、播種が多い個体では腸管内のグラム陽性球菌 (特に腸球菌) および嫌気性菌が優位という結果を得ることができた。(1)および(2)の実験結果からは、腸球菌および嫌気性菌が正の相互作用を有する細菌であり、またグラム陰性桿菌は負の相互作用を有する細菌であることが示唆され、頭初の実験計画で予定していた腸内細菌叢の網羅的解析および群間比較という点は達成できたものと考えられる。 以上の実験経過より、本研究計画はおおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験計画として、(1) これまでに解析した結果を基にして、相互作用を有する細菌をマウスより単離する、(2) 単離した細菌とカンジダ属の相互作用を検証し、関連性の強い菌種を特定する、の2点を予定し、これらを通じてカンジダ属と関連の深い細菌の特定およびその相互作用について検証することを予定している。 細菌の単離については、好気培養・嫌気培養を組み合わせることによって、マウス腸管内容物などから細菌の単離を試行開始しており、現在までの結果として、複数のマウス由来の腸球菌・嫌気性菌の単離・保存に至っている。その他単離が困難な細菌については分譲あるいは購入などの手段により入手を検討している。 また、単離した細菌とカンジダ属の相互作用の検証については、無菌マウスなどを用いたin vivoの実験も計画しており、実施に向けて無菌マウスの繁殖等も予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行に伴う一部の物品・試薬の欠品や納期の遅れや、研究業務以外に新型コロナウイルス関連業務を行う必要が生じたため、研究業務を一時中断せざるを得ない状況が生じたため、当該年度の所要額に比して実支出額が少ない結果となった。 次年度は細菌の単離のための嫌気・微好気ワークステーションの維持や無菌マウスの繁殖・維持およびこれらを用いた実験を行うために研究費を使用予定である。
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