研究課題/領域番号 |
20K17480
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
松田 幸樹 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, エイズ治療・研究開発センター, リサーチ・レジデント (70796193)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | HIV reservoir / HIV latency |
研究実績の概要 |
本研究は、抗ウイルス療法(cART)治療中のHIV感染者の末梢残存プロウイルスの定量評価系の構築を第一の目的とし、そこで確立された手法を用いてウイルスリザーバーサイズに相関するバイオマーカーを探索することを第二の目的としている。これまでに、当研究センターエイズ治療・研究開発センター(ACC)の25名のHIV感染患者検体を用いたウイルス再活性化実験を行い、全ての検体でPMA/Ionomycin刺激によるHIV再活性化が起こるわけではないことをmRNAレベルで明らかにしてきた。また、治療を受けた患者の細胞内HIV-DNA量はほとんどの患者細胞で検出限界以下であり、HIVリザーバーの高感度解析系mouse Viral Outgrowth Assay (mVOA)法を用いて正常なウイルスを作り出すintactなHIVプロウイルスの解析を行なったところ、全検体で移植後12週目までの血中ウイルスの検出には至らなかった。本年度では、対象の25名をPMA/Ionomycin刺激後のHIV mRNA発現上昇レベルで2群に分け、様々なバイオマーカーになり得る因子を解析した。刺激後のHIV mRNA発現上昇レベルと治療前・後の抗HIV抗体価が有意に相関し、さらに抗HIV抗体価は治療期間中に見られたblipsとも相関することを明らかにした。Blipsは治療で血中ウイルス量が検出限界以下に下がった後、間欠的に測定感度以上の低レベルの血中ウイルスが検出される現象であるが、blipsの頻度が多いほど現在のリザーバーサイズが大きいことが明らかとなった。またFlow cytometryを用いたT細胞サブセット別に表面マーカー解析を行い、HIV mRNA発現上昇が認められた群ではCD8+HLA-DR+TCMの割合が有意に高いことが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、当研究センターエイズ治療・研究開発センター(ACC)の治療が奏功している25名のHIV感染患者検体を用いた感染者リザーバーの高感度解析系の構築を目指し、mouse Viral Outgrowth Assay (mVOA)法を用いて正常なウイルスを作り出すintactなHIVプロウイルスの解析を行ない、HIV患者由来CD4+T細胞を移植した全マウスで、移植後12週目までの血中ウイルスの検出には至らなかった。本邦のように服薬指導が徹底されている患者体内では海外からの報告と比べて、HIVリザーバーが極めて少ない可能性が考えられるが、HIVリザーバー細胞は体内に残存したままで排除には至らない。また、リザーバー細胞が潜伏しているとされるHIV患者由来リンパ節等の組織を解析することは困難であり、抹消に漏れ出たウイルスリザーバー細胞から真のリザーバーサイズを反映させるバイオマーカーの探索が急務である。そのような中で、本研究では抗HIV抗体価、血中ウイルス量が検出限界以下に下がった後のblipsの頻度がリザーバーサイズと相関すること、さらに将来のblipsの予測因子となり得ることを明らかにした。また、Flow cytometryを用いてT細胞サブセット別に表面マーカーの解析を行い、 HIV mRNA発現上昇が認められた群ではCD8+HLA-DR+TCMの割合が有意に増加していることを明らかにした。今後、T細胞のRNA-seqを行い、様々な遺伝子発現を解析することを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、本邦で治療を受けているHIV感染者体内に残存するHIVリザーバー細胞は極めて少ない可能性があること、治療前・後の抗HIV抗体価が現在のHIV感染者リザーバーサイズに相関すること、さらにblipsの頻度がリザーバーサイズと相関することを明らかにした。今後は、RNA-seqを用いた細胞内遺伝子発現解析に加えて、幅広い臨床データを用いた多変量解析を行い、臨床学的因子の探索を行う。さらに、HIV急性感染時から治療開始時、治療後の継続的な採血が可能であるHIV感染者の血液検体の収集を、当研究センターエイズ治療・研究開発センター(ACC)の協力の下、解析を行うことを計画している。これにより、治療に伴う抹消HIVリザーバーサイズと抗HIV抗体価、種々の免疫細胞、サイトカイン産生等の体内動態を解明することが可能となる。さらには、次世代シークエンスを用いて、replication-competentなHIVプロウイルスの遺伝子配列や組み込み部位を解析することで、患者体内に残存するHIVリザーバー細胞の治療に伴うクローン性増殖パターンの変化を明らかにすることができると考えられる。さらには体内でのHIVリザーバー形成ならびに潜伏感染機序の全容解明につながることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究結果により、抹消のHIVリザーバーサイズを反映し得るいくつかのバイオマーカーを探索することができたが、さらに宿主細胞側の遺伝子発現プロファイルの解析が必要となった。そのため、RNA-seqを用いた細胞内遺伝子発現解析に必要な予算を次年度に繰り越した。これにより、次年度の研究の大幅な進展が期待される。
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