本研究は、cART治療中のHIV感染者の末梢残存プロウイルスの定量評価系の構築及び、ウイルスリザーバーサイズに相関するバイオマーカーを探索することを目的としている。これまでに、国立国際医療研究センターACCの25名の加療中HIV感染患者検体を用いて、全ての検体でPMA/Ionomycin刺激によるHIV再活性化が起こるわけではなく、細胞内HIV-DNA量もほとんどの患者細胞で検出限界以下であることを明らかにした。また、免疫不全マウスを用いた高感度HIVリザーバー解析(mVOA)を実施した場合でも全検体で正常なウイルスを作り出すintactなHIVプロウイルスの検出には至らなかった。そこで対象の25名を刺激後のHIV mRNA発現上昇レベルで2群に分け、様々なバイオマーカーになり得る因子を解析した結果、刺激後のHIV mRNA発現上昇レベルと治療前・後の抗HIV抗体価が有意に相関し、治療期間中に見られたblipsの頻度とも相関することを明らかにした。Blipsは治療で血中ウイルス量が検出限界以下に下がった後、間欠的に測定感度以上の低レベルの血中ウイルスが検出される現象であるが、blipsの頻度が多いほど現在のリザーバーサイズが大きいことが明らかとなった。さらにddPCRを用いて高感度HIVリザーバー解析(IPDA)を行った結果、刺激後のHIV mRNA上昇群ではintactなHIVプロウイルスが有意に多く、blipsの頻度とも相関することが明らかになった。また、T細胞サブセット別の表面マーカー解析とRNA-seq解析を行った所、HIV mRNA発現上昇が認められた群ではCD8+HLA-DR+TCMの有意な上昇、CD4+T細胞中のantimicrobial関連遺伝子の発現上昇が認められた。これらの細胞群・遺伝子群がHIV潜伏感染治療の標的となる可能性が示唆された。
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