研究課題/領域番号 |
20K17482
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
浅井 洋一郎 東北大学, 大学病院, 助教 (50754925)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インスリン抵抗性 / 肥満 / 脂肪肝 |
研究実績の概要 |
血糖値を下げるホルモンとして知られるインスリンは、成長因子の性質を持っており、高インスリン血症は肥満を引き起こしやすくする。膵臓から分泌されるインスリンは約半分が肝臓で分解されることが知られ、肝臓のインスリンクリアランスを呼ばれている。肥満に伴う脂肪肝では肝臓のインスリンクリアランスが低下することが報告されている。その結果、肥満においては高インスリン血症がもたらされ、さらに肥満が助長される悪循環が形成されることが考えられる。そこで研究代表者は、肥満や脂肪肝において肝臓のインスリンクリアランスが低下する機序を、マウスを用いた実験により検討した。高脂肪食の負荷を行い肥満と脂肪肝を形成させた野生型マウスにおいては、肝臓のインスリンクリアランスが低下することを観察した。肝臓においてインスリン分解に関わる分子の遺伝子発現を調べたところ、高脂肪食を負荷したマウスにおいて変化していないことがわかった。一方、類洞内皮細胞を電子顕微鏡により観察したところ、脂肪肝が形成された高脂肪食負荷マウスにおいて、特有の形態変化が観察された。また、類洞内皮細胞の単離を行って遺伝子発現を網羅的に解析したところ、炎症反応や細胞外基質に関わる遺伝子群が上昇していることがわかった。本研究により肥満に伴って生じる高インスリン血症の成因を検討することが、肥満の形成メカニズムへの理解や、肥満を抑制するための治療戦略の開発につながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
野生型マウスに対し高脂肪食の負荷を行い、肥満と脂肪肝を形成させた。高脂肪食群において肝臓のインスリンクリアランスが低下することがわかった。肝臓のインスリンクリアランスは、ブドウ糖負荷試験における血中インスリンと、血中Cペプチドとのモル比にて評価を行った。肝臓におけるインスリン分解の正確な機序は明らかとなっていないが、これまで、インスリン分解酵素(IDE:Insulin degrading enzyme), CEACAM1(carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 1)の関与が報告されている。肝臓におけるこれらの分子の遺伝子発現の評価を行ったところ、高脂肪食群と通常食群において同等であった。各群の肝臓について、走査型電子顕微鏡を用いて形態学的評価を行ったところ、高脂肪食群において類洞内皮細胞の特有の変化が観察された。各群の肝臓より、MACS(Magnetic-activated cell sorting)を用いて特異的に類洞内皮細胞を単離した。単離した類洞内皮細胞における遺伝子発現をRNAseqにより網羅的に解析したところ、高脂肪食群において炎症反応や細胞外基質に関わる遺伝子群が上昇していることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
高脂肪食負荷マウスにおいて肝臓のインスリンクリアランスが低下する機序に、これまで得られた類洞内皮細胞の形態学的変化や遺伝子発現変化がどのように関連しているかについて研究を進める予定である。また同時に、肝臓のインスリンクリアランスが低下した際に全身にもたらされる代謝変化についても検討を行う。さらに、肝臓への自律神経シグナルが、肝臓におけるインスリンクリアランスに及ぼす影響を検討する。肝臓の迷走神経切断術を行い、高脂肪食負荷マウスで行った同様の実験を行う予定である。また、単離培養した類洞内皮細胞へ神経伝達物質を添加した際の形態・遺伝子変化を解析することにより、類洞内皮細胞に与える神経シグナルの重要性を検証する。本研究により、肥満に伴う高インスリン血症における肝臓の役割を検討し、肥満を予防・抑制するための基盤となる知見を得ることを目的とする。
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