研究課題
イン・ビトロでは、ウェルナー症候群患者由来の、脂肪由来幹細胞を含有する間質細胞群(SVF)(以下、WSVFとする)を用いた検討を進めた。RNAシークエンス解析で、WSVFにおいて、細胞接着・構造に関わる遺伝子群の発現が上昇し、一方で核・細胞分裂、細胞周期に関わる遺伝子群が低下していた。中でも、発現が10倍以上上昇し、老化マウスの心筋の線維化や幹細胞の維持に関与すると報告されているPADIに着目した。PADI阻害剤によるWSVFの細胞増殖の程度を確認したが、改善は認めなかった。オイルレッド染色を用いた脂肪分化能の評価では、WSVFにおける脂肪分化の抑制を確認できた。脂肪分化マーカーであるFABP4ならびにCEBPAの発現レベルも低下していた。また脂肪分化抑制に作用するTIMP1およびYAP1の発現上昇が認められた。YAP1の上昇を認めたことから、それの関与するHippo YAP/TAZ経路に着目し、本経路に作用するROCKインヒビターおよびラパマイシンを用いた検討を進めた。ROCKインヒビターでは、WSVFの細胞増殖の改善は認めなかったが、ラパマイシン投与によってWSVFの細胞増殖の程度は改善傾向を認めた。イン・ビボでは、ウェルナー症候群iPS由来間葉系幹細胞の形質を検討する目的で、この細胞をiPS細胞から誘導し、生体膜素材のデバイスに搭載してマウスに皮下移植した。耐糖能、空腹時血糖値、体重、臓器重量など表現型の変化は認めず、耐糖能異常を検討するモデルとしては不適切と考えられた。よって、マウスモデルから、ウェルナー遺伝子ノックアウト線虫(以下gk99)を用いた検討へ変更した。ROCKインヒビターではgk99の寿命延長は認めなかった。現在、ラパマイシン投与によるgk99の寿命変化を検討中である。
3: やや遅れている
研究実績の概要にも記載した通り、RNAシークエンス法の結果を踏まえ、着目した分子PADIによる表現型改善を認めなかった。また、耐糖能異常の検討に適したマウスモデルが得られなかったため上記進捗と考えた。しかしながら、治療ターゲットとなり得るHippo YAP/TAZ経路という別の経路や、マウスから線虫モデルへ変更することで、軌道修正を図っている。
ラパマイシン投与による、WSVFにおける細胞増殖の改善を確認することができたため、その他老化関連分泌表現型SASP、脂肪分化の程度、SA-β-gal染色、テロメア長が、ラパマイシン投与によって改善するか検討する。イン・ビボ(gk99)における、ラパマイシンによる寿命の変化も調査する。また、耐糖能異常に関しては、今年度中心に検討したWSVFを用いて、P-AKT/AKT・P-ERK/ERKなどのインスリンシグナルの変化の検討も進める。これらにより、遺伝性早老症ウェルナー症候群の脂肪細胞における、老化やインスリン抵抗性との関連を探るとともに、Hippo YAP/TAZ経路が治療標的となり得るかどうか調査する。
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