研究課題/領域番号 |
20K17486
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺井 愛 東京大学, 医学部附属病院, 届出研究員 (80750182)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 膵β細胞 / インスリン分泌 / 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
糖尿病におけるインスリン分泌低下の要因として膵β細胞における小胞体ストレスの関与が示されつつある。これまでに糖尿病モデルマウスの膵島においてspliced formのXBP-1(XBP-1s)の発現が上昇していることを確認し、またXBP-1sを過剰発現させたMIN6細胞や、膵β細胞特異的XBP-1s過剰発現マウス(RIP-XBP-1s Tgマウス)においてはインスリン分泌低下を認めた。糖代謝の悪化に伴いインスリン需要が増加すると、小胞体ストレスによって恒常的にXBP-1sの発現が誘導され、XBP-1sの発現上昇がインスリン分泌低下を介して更なる糖代謝の増悪をもたらすというvicious cycleを形成している可能性が考えられる。本研究ではこの仮説をもとに、糖代謝の悪化によって膵β細胞に惹起される小胞体ストレス応答の鍵分子としてのXBP-1が、どのようにストレスに応答し、その結果膵β細胞の分化やインスリン分泌がどのように変化するのかを解明するための検討を進めている。 本年度はXBP-1s過剰発現MIN6細胞およびRIP-XBP-1s Tgマウスにおけるインスリン分泌低下の機序の検討を下記に沿って進めた。 (1)XBP-1s過剰発現MIN6細胞のマイクロアレイ解析において、Pdx1を介するインスリン分泌低下およびその他の経路について分子メカニズムの探索を進めた(2)Tgマウス膵島の小胞体ストレス状態を評価するため、XBP-1の下流分子の発現とストレスセンサーの発現・活性確認、膵β細胞の電子顕微鏡写真の解析を行った(3)Tgマウスの膵島で膵β細胞面積低下を認めており、Apoptosisや増殖を含めた組織の検討を進めた(4)Tgマウスにおいて膵β細胞脱分化を検討するため、Lineage TracingのためのTgマウスの交配を進めた(5)Tgマウスの新生児期の免疫組織学的検討を行った
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の流行により、研究活動やマウスの交配・飼育を停止せざるを得ない時期があったことが研究の遅れの原因となった。 引き続き、所属機関の新型コロナウイルス感染拡大防止のための活動制限指針に従って、研究活動を継続していく。
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今後の研究の推進方策 |
1. 病態モデルにおけるXBP-1s発現制御と病態におけるその役割の解明:糖尿病モデルマウスにおいて、経時的なXBP-1s発現量と下流の分子の発現、小胞体ストレスセンサーの活性、インスリン分泌能との関連を検討し、病態モデルにおけるXBP-1s発現制御とその役割を解明する。 2. XBP-1sによるインスリン分泌制御機構の解明:Pdx1を介するインスリン分泌低下およびその他の経路について分子メカニズムをひきつづき探索するとともに、RIP-XBP-1s Tgマウスにおけるインスリン分泌低下の機序につき以下の解析を続ける(1)Akitaマウスとの交配、高脂肪食負荷等によりTgマウスに小胞体ストレスを誘導し、小胞体ストレス負荷時におけるXBP-1s過剰発現のインスリン分泌に与える影響を評価する。(2)XBP-1s過剰発現MIN6細胞ではPulse chase実験において成熟インスリンの生成低下を認めており、今後Tgマウスの単離膵島を用いたPulse chase実験を行いTgマウスのインスリン生成能について評価する。(3)Lineage tracingを用いて、RIP-XBP-1s Tgマウスの膵島における膵β細胞の脱分化の有無を確認する。 3. 膵β細胞におけるXBP-1s過剰発現の発生・成長・糖尿病病態形成への影響を検討:新生児期および胎生期の遺伝子発現および膵臓の免疫組織学的検討を行うことで、XBP-1sの過剰発現が発生段階や病態形成に与える影響を検討する。またドキシサイクリン誘導性に膵β細胞特異的にXBP-1sを過剰発現させるトランスジェニックマウスを作製し、インスリン分泌能や単離膵島の解析、免疫組織学的検討などを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行により当初の計画よりも進捗がやや遅れており次年度使用額が生じた。次年度の研究遂行のための物品購入・マウス交配のために使用する
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