研究課題/領域番号 |
20K17493
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
馬越 洋宜 九州大学, 大学病院, 特別教員 (40741278)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 副腎 / ステロイド / 高血圧 / アルドステロン / メタボローム / ゲノム / トランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
アルドステロン産生腺腫 (APA)における臓器障害頻度は高率であるが、手術により根治可能であるため適切な診断・治療が必須であり、簡便な診断法の確立が望まれている。従来、APAは均一な代謝特性を有する腫瘍と考えられてきたが、近年の研究から多様な代謝特性を有することが明らかになってきた。本研究では、APAの代謝特性に着目し、血液のメタボローム解析と組織の統合オミクス解析を用いて多様性の成因となる病態の解明および臨床的意義を明らかにすることを目的とした。初年度は、APAの腫瘍組織を対象として、免疫組織染色、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS法)を用いたメタボローム解析、トランスクリプトーム解析、イメージング質量顕微鏡によるオミクス解析を実施した。APA、顕性コルチゾール産生腫瘍、不顕性コルチゾール産生腫瘍、非副腎皮質腫瘍を対象として、LC/MS/MSを用いて組織中のアルドステロン、コルチゾールの定量を行なった。アルドステロンについては、APAにおいてのみ有意な上昇がみられたが、コルチゾールにおいては、興味深いことにAPAは不顕性コルチゾール産生腫瘍と同定度のコルチゾール過剰分泌がみられた。次にAPAにおける、腫瘍内コルチゾール生合成の局在を評価する目的で、イメージング質量顕微鏡を用いた解析を行なった。免疫組織学染色のコルチゾール合成酵素(CYP11B1)の局在と一致して、コルチゾール合成が腫瘍内で均一的に行われることを同定した。APAおよび不顕性コルチゾール産生腫瘍を対象として、RNA-seqを施行した。315遺伝子に発現変動が確認され、steroid metabolic process パスウェイ(27遺伝子)もエンリッチされていたが、コルチゾール合成に関連する遺伝子発現は両腫瘍において差異は検出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノム解析については、副腎皮質腫瘍に関連する約30遺伝子を網羅的に評価可能な疾患遺伝子パネルの構築した。また、免疫組織染色、トランスクリプトーム解析、メタボローム解析、イメージング質量顕微鏡解析の基盤構築をを初年度に達成した。メタボローム解析では、当初はメジャーステロイドのみが可能な測定系であったが、初年度に改良を重ねてマイナーステロイドを含む、72種類のステロイド代謝産物の測定が可能となり、網羅的なステロイドプロファイリングが可能となった。次年度の血液検体解析、患者情報の統合のために必要となる疾患データベースの構築を推進し、併せて統合解析に必要となる機械学習として、教師あり学習の手法であるランダムフォレスト法を用いた疾患予測モデルの構築に成功し、英文原著論文に報告した。以上のように、解析方法の構築と改良により、次年度以降の研究プラットホームの構築を初年度に行った。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の実績を踏まえて、血液検体のメタボローム解析、機械学習による統合的解析を推進する。血液検体のメタボローム解析では初年度に確立した網羅的なステロイドプロファイリングに基づき、APAあるいは特発性副腎過形成と診断された副腎組織検体におけるステロイド代謝産物に基づく代謝特性および、体細胞変異、免疫組織染色、トランスクリプトーム解析の結果と血中ステロイド代謝産物の相関を検討する。機械学習による統合的解析では、教師あり機械学習により網羅的解析により得られる情報と臨床情報を統合し、APAを診断可能とする診断予測モデルの構築を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19感染症の拡大に伴い、当初施行予定であったが実験計画に遅延が生じたため、次年度に予算を持ち越す方針とした。
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