研究課題/領域番号 |
20K17498
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
鍵谷 忠慶 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (30405774)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エクソソーム / microRNA / 糖尿病 / 歯周病 / 細胞外小胞 / ナノ粒子 / インスリン抵抗性 / リキッドバイオプシー |
研究実績の概要 |
歯周病はP.gingivalisに代表される歯周病原性細菌が、歯周組織に感染することによって引き起こされる生活習慣病の一種である。歯周病が進行すると歯槽骨が破壊されて、患者は歯を失う。近年、歯周病の影響は口腔局所にとどまらず、全身へ及ぶことが、次々と明らかになってきている。糖尿病、動脈硬化、アルツハイマー病、誤嚥性肺炎、慢性閉塞性肺疾患等のリスクファクターや増悪因子であり、早産の原因にもなる。 このうち、歯周病による2型糖尿病の増悪には、単球やマクロファージから分泌されるTNF-alpha やIL-1 beta等の炎症性サイトカイン、あるいは歯周病原性細菌の内毒素(LPS)がインスリン抵抗性を惹起することが原因と考えられているが、これだけでは説明できない事も多い。そこで、研究代表者は、「歯周病が糖尿病を増悪させる重要なメカニズムが、炎症性サイトカイン以外にもあるのではないか」と考えて、血流等を介した全身疾患へ影響を与える可能性のある新規分子としてエクソソームに注目して、研究を進めている。エクソソームは細胞が分泌するナノ粒子で、その中にはmRNAやmicroRNAが存在し、新規の細胞間情報伝達物質である可能性が高く、歯周病と2型糖尿病の病態関係を、全く新しい視点から解明する重要な分子であると考えられる。 さて、歯周病が進行すると歯槽骨が破壊されるが、その破壊の主役は破骨細胞である。そこで2020年度は、生理的状態での破骨細胞由来のエクソソームについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度(2020年度)は歯周病特異的エクソソームの存在と内部のmicroRNAを検討する計画であった。上述のように、歯周病が進行すると歯槽骨が破壊されるが、その破壊の主役は破骨細胞である。そこで先ず、生理的状態での破骨細胞由来のエクソソームについて検討した。ヒト単球であるCD14陽性細胞をM-CSFによってマクロファージへ分化させて、エクソソームを回収した。そして、CD14陽性細胞からM-CSF/RANKLを使って、破骨細胞を分化させ、同様にエクソソームを回収した。マクロファージと破骨細胞から分泌されたエクソソームの中のmicroRNAをマイクロアレイ法で網羅的に調べて、qRT-PCR法で確認した。マイクロアレイ法では、miR-451a と miR-6850-5pが破骨細胞由来のエクソソームで強く発現していたが、qRT-PCR法で確認したところ、マクロファージ由来のエクソソームと比べて有意に強く発現していることはなかった。また、miR-214-3pは破骨細胞由来のエクソソームで強く発現しているという報告があるが、本実験ではそのような結果は得られなかった。 本年度は新型コロナウィルス感染拡大の影響等で、研究にやや遅れが生じた面があるので、次年度は、本成果を踏まえて、さらに詳細に検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
① 歯周病特異的エクソソームの存在と内部のmicroRNAを検討する。ここでは、研究代表者のこれまでの研究成果を踏まえ、さらに詳細に検討する。 ② 骨格筋細胞と肝細胞が歯周病特異的エクソソームを取り込むかどうか調べる。得られたエクソソームをPKH26GLで赤色にラベル後、GFPを導入したヒト初代骨格筋細胞と肝細胞株HepG2へ添加する。赤色のエクソソームが、緑色の細胞へ取り込まれるところを超解像顕微鏡でライブ撮影をして、エクソソームの取り込みを示す。 ③ エクソソーム内のどのmicroRNAがインスリン抵抗性を促進するかを検討する。Ying ら(Cell, 372-384, 2017)の方法を参考に、骨格筋細胞とHepG2細胞における、グルコースの取り込みと産生を、それぞれ測定する。更に、骨格筋細胞においてグルコーストランスポーター(GLUT4)の細胞膜への移行をウェスタンブロット法と蛍光免疫染色法で調べ、転写因子PPARの発現と活性化についても調べる。これによって、歯周病特異的エクソソームが、骨格筋でのグルコースの取り込みや、肝臓での糖新生に影響するか明らかになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度(2020年度)は予算(直接経費)170万円のうち、155万円をリアルタイムPCR装置の購入に充当し、残りの15万円を試薬類の購入に充当する予定であった。試薬類の購入については、ほぼ予定通りの使用であったが、リアルタイムPCR装置の購入には、時間がかかってしまった。これにはいくつか理由がある。 先ず、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、臨床検査でリアルタイムPCR装置の需要が急増して、装置の購入に支障が出たこと。次に、予算の都合で、MyGo Pro Real Time PCR装置(IT-IS Life Science社)を購入予定であったが、同じ予算でより高性能なモデルを購入できないか検討するのに時間がかかったこと。このような理由でリアルタイムPCR装置は、2021年4月9日の納品となり、次年度(2021年度)使用額が生じた。 従って、2021年5月現在、当初の計画通りの予算額となり、計画通りに使用する予定である。
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