血中プロインスリン/インスリン比は臨床で測定可能な膵β細胞機能の指標の一つであり、2型糖尿病発症以前の境界型耐糖能異常の段階から上昇し始める。プロインスリンは分泌顆粒内においてProhormone Convertase 1/3(PC1/3)により主に切断される。PC1/3の成熟と酵素活性は共に分泌顆粒内酸性環境に依存し、分泌顆粒内環境の変化はPC1/3の酵素機能に影響を与える。そして分泌顆粒内酸性化はV-ATPase と呼ばれるタンパクにより主に調整され、このタンパクの機能は細胞質V1ドメインとオルガネラ膜上V0ドメインの結合により制御されている。本研究は2型糖尿病発症に関与する糖脂肪毒性がプロインスリンプロセシングに及ぼす影響を、PC1/3の酵素機能障害と分泌顆粒酸性環境の観点から明らかにすることを目的とする。 肥満糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスより単離した膵島と、C57BL/6マウスから単離した膵島に高濃度グルコース及び飽和脂肪酸を負荷した後、pH指示薬を用いて標識したところ細胞内の酸性度が低下していることを明らかにした。ウエスタンブロット法による検証では、これらの膵島においてPC1/3の成熟が障害されており、成熟インスリンの産生が低下していた。また電子顕微鏡を用いた形態学的解析では、成熟分泌顆粒の減少と未成熟分泌顆粒の蓄積を認めた。 次にオルガネラ内の酸性度を調整するV-ATPase の機能を評価するため、細胞分画法と近接ライゲーションアッセイにより2つのドメインの結合を検証した。飽和脂肪酸と高濃度グルコースによりこの結合は障害されることを示した。 2023年度はこれらに加え、膜上V0ドメインのサブユニットの一つV0dに翻訳後修飾Palmitoylationが作用し、この結合が阻害された結果、V-ATPase 機能が障害されることを明らかにした。
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