研究実績の概要 |
母性行動の発動には様々な因子が影響しており、遺伝や環境だけでなく性ホルモンによっても制御されている。母性行動を制御する重要な性ホルモンのひとつがエストラジ オール(E2)である。これまでの報告ではマウスのエストロゲン受容体αを欠失させると育児中の仔を攻撃するなどの育児行動障害が起こる。これらの事はE2がエストロゲン受容体(ERα)を通じて養育のモチベーションを調節していると示唆している。 エストロゲンの生合成はその律速酵素であるアロマターゼによって調節されており,その発現は性腺を始め各組織で独自にコントロールされている。アロマターゼは中枢神経系において海馬や視床下部,扁桃体に多く発現しており,その局所で生合成されたエストロゲン(ニューロエストロゲン)は記憶や生殖行動に影響を与えることが報告され,このニューロエストロゲンには様々なはたらきがあるとされている。 今回我々はニューロエストロゲンが養育行動に及ぼす影響を明らかにするため、卵巣からのエストロゲン供給を停止させた卵巣切除マウス(OVX)と全身でエストロゲン合成が出来ないアロマターゼノックアウトマウス(ArKO)およびニューロエストロゲンの生合成を過剰にしたBrTG-Aromを用いて検証を行った。 はじめに母親の脳内でCyp19aおよびERαの発現量が増加しており,これが母性モチ18 ベーションの向上に関与していることが考えられた。さらに,未交尾のOVXマウスを用いて卵巣から供給されるエストロゲンの影響を排除したが,養育行動に変化はなかった。ニューロエストロゲンが過剰に発現しているBrTG-Aromでは仔の成長や生存率が21 向上することが明らかになった。本研究によって血液中のエストロゲンとは独立して作用するニューロエストロゲンが養育行動を促進することが示された。
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