Cushing病はACTH産生下垂体腺腫による高コルチゾール血症が、高血圧・糖尿病・感染症・骨粗鬆症など様々な合併症を引き起こす疾患である。手術・放射線療法のみでは制御困難な場合も珍しくないが、一方で現状の薬物療法の効果は限定的である。Cushing病に対する薬物療法の研究はこれまでも行われてきた。しかし従来の研究では、他の臓器の腫瘍に用いられている薬剤をCushing病にも転用しようという主旨のものがほとんどであり、それ故か、アンメット・ニーズはアンメットのままであった。 そこで本研究ではCushing病に対する薬物療法の新規標的探索を含めた治療戦略の提案を目的とする。その際にCushing病に特有の病態を見出すことで、それを標的とした治療法の基盤を構築したいと考えている。 本年度は、Cushing病に特有の病態を把握することから研究が始まっている。Cushing病とは異なる、これもまた代表的な下垂体腺腫である成長ホルモン産生下垂体腺腫の一部のタイプでは、Fibrous bodyと呼ばれる中間径フィラメント(サイトケラチン)が球状に凝集した細胞質内の構造物が特徴的とされている。今回このFibrous bodyがACTH産生下垂体腺腫であるCushing病にも存在することを腫瘍組織の免疫染色から見出した。つまり、通常の腺腫(集団1)や高悪性度亜型であるCrooke cell adenoma(集団2)の他に、fibrous bodyの目立つ集団3の存在が明らかになった。そして、その存在が決してまれではないことを、多症例の組織像の染色パターンを基にしたクラスタリングで明らかにした。このことから、中間径フィラメント(サイトケラチン)がCushing病の治療戦略における重要因子の候補として浮かび上がってきた。
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