バセドウ病に代表される甲状腺機能亢進症の治療には、数十年にわたり大きな変化がなく、第一選択となっている抗甲状腺薬も問題点として種々の副作用を抱える。本研究課題では、甲状腺機能亢進症の新たな治療薬を開発するための標的を探索し、今後の研究の基盤を構築することを目的とした。 この目的を達成するにあたり、我々は甲状腺刺激ホルモン(TSH)を過剰発現させる戦略により、新規甲状腺機能亢進症モデルマウスを開発した。長らく不明であった抗甲状腺薬の作用点の同定、TSH受容体活性化による分子レベルの変化の解明を目指し、このモデルマウスの詳細な解析を開始した。前年度までにコントロールマウス、モデルマウスそれぞれに抗甲状腺薬であるチアマゾールを投与し、甲状腺ホルモン血中濃度の測定を行った。モデルマウスの甲状腺ホルモン血中濃度をコントロールマウスと同程度に低下させることが可能な抗甲状腺薬の至適濃度を見出した。 本年度はこれらのマウスから得られた甲状腺に対しRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を実施した。残念ながらチアマゾールによる遺伝子発現変化は僅少であった。このことから、チアマゾールによる甲状腺機能亢進に対する抑制効果は、遺伝子発現調節よりも既報により示されている甲状腺ペルオキシダーゼ活性の抑制が主であることが示唆された。しかし、コントロールマウスとモデルマウスの比較により、甲状腺機能亢進症の分子病態を理解するための基盤となるデータセットを獲得した(論文投稿準備中)。従来の知見も参考にしながら着目した特定の遺伝子に関する新たな研究計画を立案し、今後検討を予定している。またGO解析やパスウェイ解析も行っており、甲状腺機能亢進症の系統的な理解にも寄与する成果を得た。
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