研究課題
特発性アルドステロン症(idiopathic hyperaldosteronism; IHA)は、アルドステロン過剰分泌によって高血圧をきたすこと、本態性高血圧と比較し心血管合併症をきたすリスクが高いことが知られている疾患で、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬投与という疾患特異的な治療があることから、適切に診断することが求められる。一方で、IHAはアルドステロン過剰分泌の程度、臓器障害合併の程度も様々でありながら、その成因解明は進んでおらず、その全てに一様の診断、治療がなされている。病態解明によるその診断の精緻化、真に治療介入を必要とする高リスク患者の抽出は急務である。本研究はレプチン測定、メタボロミクス解析、性別・肥満の有無による臨床像の比較などを通して、「肥満を伴うIHA」の成因、臨床像、病原性を明らかにし、肥満合併高血圧の病態解明、IHAの診断・治療の精緻化への端緒となることを目指すものである。現在、本研究の対象となる患者群および対照群の臨床情報収集および血液サンプルの収集をほぼ完遂し、解析に着手している。解析の進捗は以下のとおりである。①成因解明に関する項目:既報で関連が強く示唆されるレプチンについて特異的に測定を行い、女性においてのみ血中レプチン濃度とアルドステロン自律分泌量が相関することを見出した。②ステロイドホルモンプロファイル:九州大学病院内で樹立したステロイド代謝経路の包括的評価が可能な15種類のステロイド代謝産物パネルを用いて検討を行ったがIHA特有のステロイドプロファイルを同定するには至らなかった。そこで共同研究者とともに更に詳細なステロイド代謝経路を評価可能とするステロイド代謝産物パネルを構築中である。現在、健常者を対象とした基礎検討を行っている。③縦断解析:肥満症例の減量前のサンプル収集は完了、減量後のサンプル収集を継続している。
2: おおむね順調に進展している
①成因解明に関する項目:レプチンの評価は完遂し、女性に限ってレプチンとIHAの因果関係があることを明らかにした。一方で、脂質代謝産物の詳細な解析、ノンターゲット解析からIHAの誘因となる新たな代謝産物の同定ができておらず、男性におけるIHAの成因、女性におけるレプチン以外の因子については同定に至っていない。②ステロイドホルモンプロファイル:九州大学病院内で樹立したステロイド代謝経路の包括的評価が可能な15種類のステロイド代謝産物パネルではIHA特有のステロイドプロファイルを同定するに至らなかったため、より詳細な評価を可能とするパネルを構築中である。また、得られる多数のパラメータから効率よく解析を行うため、機械学習による解析を習得した。③アウトカムに関するデータ、サンプルの収集:血圧、Body mass index、電解質・糖代謝・脂質代謝、副腎関連ホルモン、内分泌機能検査、CT所見、体組成(BI法)、動脈硬化指標(頸動脈エコー、ABI、PWV、CAVI)、心機能指標(BNP、心エコー)、腎機能、肝脂肪化・線維化、単球機能(FACS、マクロファージ極性評価)の評価を行っているが、単球機能評価を行えた症例が少ない。一方で、本研究と並行して、九州大学病院を含む国内数施設による原発性アルドステロン症をはじめとする副腎疾患レジストリー(Q-AND-A)を構築、より大規模にIHAの臨床データ、血液サンプルの収集を可能とする体制を構築した。また、本レジストリーから得られた原発性アルドステロン症の診断効率化に関する知見を複数、論文化した。
①脂質代謝産物の詳細な解析、ノンターゲット解析から男性におけるIHAの成因、女性におけるレプチン以外のIHA誘因因子の同定を目指す。②当初計画より更に詳細なステロイド代謝経路を評価可能とするステロイド代謝産物パネルを構築し、機械学習による解析も用いて、IHA特有のステロイドプロファイル同定を目指す。③肥満手術による体重減少が得られた症例の減量後のサンプル収集を更に進め、肥満のIHA病態への寄与、その病態を明らかにする。
ステロイド代謝経路の包括的評価を可能とする新たなステロイド代謝産物パネルを構築中であることから、同解析に使用する予定であった費用に余剰金が生じた。次年度に解析を行う際の費用に使用する予定である。
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