研究課題/領域番号 |
20K17519
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
山室 大介 自治医科大学, 医学部, リサーチ・レジデント (20739255)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 25-Hydroxycholesterol / アポトーシス / NCEH1 |
研究実績の概要 |
コレステロール酸化代謝物であるオキシステロール類は様々な生理活性が報告され、多くの疾患との関連について報告がなされてきた。しかし、その詳細な分子機序は未解明な点が多い。その中、NCEH1欠損マウスから採取した腹腔マクロファージの培養液中にオキシステロール類のひとつである25-Hydroxycholesterol(25-HC)を添加すると、小胞体ストレス関連分子の発現とアポトーシスが顕著に誘導されることを我々は見いだした。この時、マクロファージ内の25-HC ester含量が小胞体で顕著に増加していた。一方、エステル化反応を触媒する酵素(Acyl-CoA:cholesterol acyltransferase1; ACAT1)の特異的阻害剤を添加すると、これらの現象はほぼ完全に抑制された。従って、NCEH1欠損による25-HC esterの小胞体における蓄積が小胞体ストレス誘導を仲介し、アポトーシスを引き起こすことが示唆された。オキシステロール類の多くは核内受容体LXRにリガンドとして結合し、脂質代謝制御や抗炎症作用といった生理作用を引き起こす。25-HCはコレステロール輸送タンパクNPC1やオキシステロール結合タンパク(OSBP)へ結合し、ステロール代謝のみならず広範な細胞機能を調節する。25-HCはウイルス感染抑制作用、IgA産生抑制作用など主に免疫・炎症での作用が注目されているが、アポトーシス誘導の詳細な機序に関してはまだ未解明である。そこで本研究では、NCEH1欠損マクロファージにおける25-HC ester蓄積が誘発する小胞体ストレスの分子機序を解明し、NCEH1とオキシステロール類のマクロファージ生理機能への作用機序を明らかとする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NCEH1欠損マクロファージを25-HC含有培地にて培養し、アポトーシス誘導に関連する標的分子をwestern-blotting や real-time PCR などの生化学的手法を用いて解析した。まず、25-HC ester蓄積によって誘導されるNCEH1欠損マクロファージにおけるアポトーシス誘導の新たな分子標的の探索を行うにあたり、25-HC添加によるマクロファージ内タンパク発現量の変動を二次元電気泳動法(蛍光標識2D-DIGE 野生型: Cy3 ,NCEH1 KO : CY5, 内部標準 : Cy2) にて探索した。野生型およびNCEH1欠損腹腔マクロファージに25-HC添加条件下で小胞体ストレスを誘導させたサンプルを対照とし、タンパク量に変動が見られたスポットをLC-MS/MSにて解析した。変動の見られた候補タンパクをwestern-blotting法にて比較解析した結果、13の候補タンパクのうちGalectin-3、Cathepsin Dといったタンパク発現量の増減が見られた。Galectin-3はマクロファージの接着・分化・増殖・遊走といった細胞機能に、Cathepsin D はマクロファージ泡沫化や動脈硬化プラークの形成・安定化に関与していることが報告されている。Cathepsin D 阻害剤であるPepstatin Aを同時添加することで25-HCによるNCEH1欠損マクロファージにおけるアポトーシス誘導への影響を検討した。Real-time PCR 法にてアポトーシス誘導の指標としてCHOPの発現を解析した結果、アポトーシス誘導への影響は見られなかった。今後さらなる標的分子の検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で見出した25-HC ester 蓄積が誘導する小胞体ストレスやアポトーシスが、GCN2/eIF2α/ATF4経路およびPLCβ3/ Ca2 +/Bcl-XL経路によるものなのかを検討する。NCEH1欠損マクロファージを25-HC含有培地にて培養し、上記のシグナル分子をwestern-blotting や real-time PCR などの生化学的手法を用いて解析する。25-HC free添加による細胞への生理活性は報告されているが、細胞内25-HC ester増加を起因とした生理作用に関する報告はない。特に本研究ではNCEH1欠損マクロファージに対してLPS添加時の25-HC ester蓄積が細胞機能調節に関与するかを明らかにしたい。そこで、LPS添加条件下におけるマクロファージ細胞機能を解析する。マクロファージの細胞遊走能はBoyden Chamber Cell Migration assay kit、貪食能は Phagocytosis assay kit にて解析し、分化能に関しては フローサイトメトリー(FACS)を用いたポピュレーション解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大による緊急事態宣言発令に伴い、動物センターでのマウス飼育にも一部制限がかかったため、実験マウスの必要数の確保が遅れたため次年度使用額が生じた。次年度に繰り越した助成金に関してはマウスの飼育費に使用する予定である。
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