本研究では、研究代表者らが見出した迷走神経シグナルによる細胞増殖機構のさらなる詳細の解明と、治療応用へ向けての検討を行った。具体的には①迷走神経因子の複合的作用による膵β細胞増殖の詳細な細胞内分子メカニズムの解明、②生体内で直接迷走神経を活性化することによる膵β細胞、肝細胞の増殖誘導の検討、③生体外での迷走神経因子や類似のシグナルを介するリガンドを作用させることによる高効率な膵β細胞増殖法の探索の3点について進めた。 ①マウス単離膵島に迷走神経由来因子を作用させ、膵島細胞の遺伝子発現をマイクロアレイで網羅的に解析したところ、ある候補経路の活性化を見出した。その経路を構成するいくつかのシグナル分子について膵β細胞特異的ノックアウトマウスの作出を進め、完成したモデルマウスから順次解析を進めている。 ②生体マウスに対して長期間にわたり安定的な神経活性化を得るため、光遺伝学的手法を用いて、青色光照射によるアセチルコリン作動性ニューロン特異的活性化が可能なマウスを作出した。同モデルマウスで腹腔内迷走神経を継続的に活性化したところ、有意な膵β細胞量の増加を認めた。肝細胞の増殖作用についても検討中である ③マウス単離膵島、培養膵β細胞株であるMIN6細胞の遺伝子発現をマイクロアレイ法で解析した結果、多くのGsまたはGq蛋白共役型受容体が発現していることを見出した。それらの中には迷走神経因子に対する受容体よりも発現レベルが高いものもあり、迷走神経因子以外での複数のリガンドの組み合わせでマウス膵島細胞の増殖誘導に成功した。引き続き高効率な因子の組み合わせを探索中である。 以上の成果を今後さらに発展させることで、迷走神経シグナルに基づく細胞増殖機構の解明、制御が糖尿病や肝臓切除後の肝不全に対する有望な治療法の開発につながることが期待される。
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