研究課題
コルチゾール産生腫瘍(CPA)はホルモン分泌副腎腫瘍の中でも頻度が最も高い疾患である。申請者はCPA臨床検体を用いて、NGS(遺伝子体細胞変異やCNV; copy number variation)と臨床パラメータの統合解析を行ない、CPAがほぼ全例排他的にPKA/GNAS/WNT変異群の3群に分類されることを明らかにしてきた。一方これらの排他的な遺伝子変異がどのように腫瘍形成に関連するのかという点は不明である。それらを明らかにするにあたり臨床検体の解析の問題点としては腫瘍がheterogeneityに富んでいる点が考えられる。すなわち検体には腫瘍細胞の他に線維芽細胞や免疫細胞、血管内皮細胞といった様々な間質組織が含まれており通常の抽出法ではこれらの様々な細胞が平均化された情報となってしまう。そこで本研究では、前述のPKA/GNAS/Wnt遺伝子変異の知見を基盤として、組織レベル、シングルセルレベルの解析を通じて、腫瘍発生のメカニズムを中心としたコルチゾール産生腺腫の分子基盤の解明を行うこととした。特にシングルセル解析は癌等の悪性腫瘍解析における報告は多いが副腎腫瘍における報告は少なく、良性腫瘍であり比較的腫瘍細胞自体の性質が均一であると考えられる点から解析に適していると考えられる。本研究の成果はCPA診断治療における個別化医療の礎となることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
以下の通りシングルセル解析について進捗を認め、解析手法を確立した。当院泌尿器科で摘出した副腎腫瘍を対象に解析を行った。検体は計12症例、うちクッシング症候群(CS)2例、サブクリニカルクッシング症候群(SCS)5例、原発性アルドステロン症(APA)5例である。これらを対象にsingle cell RNA sequencingを施行した。具体的には副腎腫瘍および付着正常部から別々にFACSでシングルセルをソートし、死細胞を除去、1症例あたり約20,000個の細胞を得た上でプロトコールに則って解析を施行した。12症例(腫瘍部157,619個、付着正常部174,134個)のクラスター分類解析では23のクラスターを同定し、疾患ごとの発現の違いを明らかにした。まず腫瘍部においても腫瘍コンテンツが35%程度と低値であることが判明した。また副腎皮質細胞のサブクラスタリング解析ではSCSとAPAで遺伝子発現パターンが異なっていることが提示された。ステロイド合成酵素の遺伝子発現解析では上記のサブクラスタリング解析でもSCSに多くを占めるサブクラスターでCYP17A1の発現が、APAが多くを占めるサブクラスターでCYP11B1の発現が高値であるように発現パターンが異なることも見出された。
まずsingle cell 解析を行う症例を蓄積する。特にCS症例が少ないために症例を増量する。さらに転写因子解析やcell-cell interaction解析も行っていきたい。さらにこれらのsingle cell解析と並行してNGS解析も行い、当初の目的であるCS/SCS体細胞遺伝子変異やステロイド合成能等の臨書情報との関連付けを行い統合解析を進める予定である。
すべて 2021
すべて 学会発表 (7件)