前年度までに、肥満モデルマウスでの脂肪蓄積や耐糖能異常が、骨格筋の筋線維におけるグルココルチコイド受容体(GR)シグナルによって促進されること、この表現形はメスよりもオスで顕著であることを見出していた。そこで本年度は、オスマウスを用いて、骨格筋へのグルココルチコイド作用が肥満や糖代謝異常の増悪に関わる機序を、個体レベルの代謝変化の観点から追究した。 慢性コルチコステロン投与による肥満モデルでは脂肪組織重量の増大や高インスリン血症の誘導がみられたが、骨格筋特異的GR欠損(GRmKO)マウスではそれらの変化は軽減された。また、ストレプトゾトシン前処理により同モデルでの高インスリン血症誘導を抑制したところ、脂肪組織重量の増大が消失した。さらに、別な肥満モデル(ob/ob)においても、GRmKOマウスでは高インスリン血症の誘導が抑制され、その後の全身的な脂肪蓄積が抑制された。上記いずれの肥満モデルにおいても、GRmKOマウスでは血糖値の上昇が抑制された。以上、オスの肥満における骨格筋グルココルチコイド作用が、高インスリン血症の誘導を引き起こしつつ脂肪蓄積や耐糖能異常を惹起すること(骨格筋GRがその治療標的になりうること)を示した(JCI Insight. 2023)。 研究期間全体を通じて、種々のマウスモデルを用いることにより、(1)加齢サルコペニアの早期変化には性差があり、代謝物の投与によるサルコペニアへの拮抗も可能であること、(2)肥満の病態には性差があり、その病態基盤には骨格筋GRシグナルを含む多段階的な内分泌制御が存在していること、を明らかにした。 本研究により、サルコペニアや肥満の病態の理解が、性差の観点とともに進んだ。今後は、多様な性のあり方と各種病態との関連を追究することで、全身状態を性と関連させながら的確にとらえて介入する個別合理的な医療開発が可能になると考えられる。
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