研究課題
① 生体におけるインスリン放出動態の検討;ラットの皮下に血液透析用中空糸融合型の自律型インスリン投与デバイス(中空糸融合型デバイス)と持続血糖モニタリング装置を留置し、内頸静脈に挿入したカテーテルよりグルコース溶液を持続的に静注して、血糖値と血中インスリン濃度を10分間隔で計測した。この時、血中のデバイス由来インスリン濃度は、グルコース注入のオン・オフに伴う血糖値の変動に対して、速やかに応答することを見出した。② 血糖値変動に対する効果の検討;持続血糖モニタリング装置(Abbott社FreeStyleリブレPro)をラットの皮下に留置して、グルコース投与や絶食・再摂食負荷を行うことにより、中空糸融合型デバイスが血糖値変動に及ぼす影響を評価した。ストレプトゾトシンを少量用いて軽症糖尿病モデルを作製したところ、主にラットの活動期に血糖値が上昇し、血糖日内変動が生じた。人工膵臓デバイスを用いて治療を行うと、活動期の高血糖がより顕著に改善し、一方で、非活動期の正常域血糖値には影響を及ぼさないことが明らかになった。③ マイクロニードル融合型デバイスの開発;臨床応用を見据え、大幅なスケールアップと低侵襲化を図ることを目的とし、マイクロニードル融合型の自律型インスリン投与デバイス(マイクロニードル融合型デバイス)を開発した。ストレプトゾトシン(STZ)誘発1型糖尿病マウスモデルを作製し、STZ 誘発1型糖尿病モデルマウスもしくは、通常マウスの皮下に、インスリンを封入した、マイクロニードル融合型デバイスを装着し、簡易血糖測定器を用いてデバイスによる血糖コントロール効果を検討した。また、ヒトインスリンELISAキットを用いて、デバイス由来のインスリン値を測定した。デバイス埋め込み後、通常マウスと比較して、1型糖尿病モデルマウスで有意に高いデバイスからのインスリン放出と、血糖抑制効果を認めた。
2: おおむね順調に進展している
上述の研究成果により、「血糖依存性のインスリン放出」という本デバイスの特性を活かして、血糖日内変動を抑制することを新たに見出しており、糖尿病合併症の発症・進展抑制に重点を置いた新たなインスリン治療の可能性を示した。また、大幅なスケールアップ、インスリン放出特性の個体レベルでの評価にも成功している。さらに、臨床応用に向けた要素課題の解決に向けて、MN融合型デバイスの開発を進めており、マウスを用いた検討により、デバイスからの血糖依存的なインスリン放出と、血糖抑制効果を認めた。以上より、研究は順調に進捗していると考える。
次年度は、臨床応用を見据え、マイクロニードル融合型デバイスによるスケールアップを図り、ラットおよび、ヒトとほぼ同等の体重を有するブタを用いて、ヒト用デバイス作製の基盤となるデータを取得する。具体的には、正常および1型糖尿病のラットおよび、ブタにデバイスと持続血糖モニタリング装置を留置し、デバイスの治療効果を検証する予定である。また、新たにテレメトリーシステムを導入しており、従来の間欠的静脈採血や FreeStyle リブレ Pro で困難であった血糖日内変動の詳細な評価を行い、合併症予防や安全性に関する質の高いデータを取得する。さらに、血糖日内変動の改善が、酸化ストレスや骨髄細胞の動態に与える影響を検討することで、血糖変動の改善や合併症に対する予防効果をより詳細に検証する。
次年度は、臨床応用を見据え、新たにブタを用いた実験を予定しており、本年度コロナ禍により使用できなかった旅費等を充当する予定である。
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Commun. Biol.
巻: 3 ページ: 313
10.1038/s42003-020-1026-x.