本研究は、タンパク質リン酸化に注目して、肥満から糖尿病が発症する前段階(前糖尿病状態)までの過程における、ミトコンドリア代謝経路の時系列の変動・シグナル動態を解明することを目的として行った。研究方法は、まず肥満から前糖尿病状態のモデルマウスの肝臓を用いて、時系列リン酸化プロテオーム解析を行った。また当初の計画に加えて、シグナル伝達機構のより上流を理解するために、キナーゼ推定の解析ソフトウェアを使用して、変動リン酸化部位の責任キナーゼの推定を行った。本研究で測定したデータを含む、3階層(リン酸化プロテオーム・発現プロテオーム・メタボローム)の時系列マルチオミクスデータと推定した責任キナーゼ情報を用いて、ミトコンドリア代謝経路変動の統合解析を行った。 R4年度は、取得した3階層の時系列データと責任キナーゼ情報を用いて、ミトコンドリア代謝経路の変動の検出、数理解析、多階層の統合解析を行った。初めに、前年度に問題が確認されたデータのクリーニング条件と変動検出の閾値設定を再度検討し、これらの条件を決定した。その後、各階層における時系列変動の検出と、リン酸化プロテオーム階層と発現プロテオーム階層にまたがる変動の数理解析を行った。更に、発現プロテオーム階層とメタボローム階層の変動情報を、KEGGデータベースの代謝酵素情報を利用してつないだ。最終的に、責任キナーゼ-リン酸化プロテオーム-発現プロテオーム-メタボロームの階層をつなぎ、ミトコンドリア代謝経路変動のシグナル動態の解明を試みた。その結果、ミトコンドリア代謝経路中の、コレステロール合成や酸化関連の複数の経路中で、多階層にまたがる変動経路が検出され、これまで明らかにされていなかった、時系列のシグナル動態を明らかにすることができた。
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