研究課題/領域番号 |
20K17538
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
津山 友徳 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 特任助教 (10845960)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 低酸素 / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
糖尿病病態のような慢性低酸素状態が発生していると考えられる条件下において、膵β細胞がどのような低酸素応答をしているのかについては不明のままである。申請者は予備的検討において、長期低酸素下の膵β細胞ではプロリン水酸化酵素PHD3が高発現していることを新たに見出した。本研究では長期的低酸素培養下や糖尿病病態下の膵β細胞においてPHD3がどのような役割を果たしているのかを解明することを目的としている。 令和2年度には、糖尿病病態下の膵β細胞におけるPHD3の機能を解明するために、① 肥満型糖尿病を発症する遺伝的バックグラウンドを有するモデルマウスにおいてPHD3を膵β細胞特異的に欠損させたマウス個体を作出した。② PHD3を欠損した肥満型糖尿病マウスでは、耐糖能が悪化していることが判明し、PHD3は糖尿病病態に関与していることが明らかになった。耐糖能が悪化した原因として、細胞増殖と細胞死との関与を検討するために、③ マウス膵島における細胞増殖能および細胞死を評価する実験系を確立した。またこれまでの予備的検討からPHD3はAktに結合していることを確認している。Aktは細胞増殖や細胞の生存を司る重要な因子であることから、PHD3はAktを水酸化しAktの活性を変化させることで機能を果たしている可能性がある。今年度は、④ PHD3によるAkt水酸化部位を特定するための前段階として、Akt上のPHD3結合部位を絞り込むためにプルダウンアッセイ系の構築を行った。 慢性的な低酸素下で重要な役割を担っている低酸素誘導因子の存在は知られていない。今回、低酸素状態に陥っている糖尿病マウスのβ細胞において、PHD3が血糖調節に関与する因子であることが判明した。今後その作用機序を解明していくことは、糖尿病病態における低酸素応答の役割を解明し、新たな糖尿病治療法の開発につながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度には、① PHD3が低酸素培養下のβ細胞の細胞増殖・生存・機能に及ぼす影響を検討し、②それがAktとの相互作用を介したものであるかどうかを検討することを予定していた。①の課題に関しては、当初の予定ではin vitroの実験系で実施することを計画していたが、PHD3欠損モデルマウスの作出が予定よりも順調に進んだため、in vivoにおける細胞増殖と細胞死を評価する実験系の構築を優先して行った。すでにin vitroおよびin vivoの両者において、β細胞の増殖・生存・機能を評価する実験系の準備は完了しているので、令和3年度中にはこれらの評価をすべて完了することができる見通しである。②の課題に関しては、Akt上のPHD3による水酸化部位を同定し、その部位に変異を導入したβ細胞株における低酸素応答の評価を行うことを計画していたことから、現状では研究が遅れている。令和3年度には②に関して重点的に取組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、① 糖尿病病態におけるPHD3の役割を解明するとともに、前年度の計画から引き続き、② PHD3が低酸素培養下のβ細胞の細胞増殖・生存・機能に及ぼす影響、および、それがAktとの相互作用を介したものであるかどうかを検討する。①の課題に関しては、具体的には今後、前年度作出したマウスの膵島における細胞増殖、細胞死、インスリン分泌、β細胞量などを評価し、糖尿病病態下の膵β細胞におけるPHD3の役割を明らかにすることを目指す。この課題に関しては前年度の段階で予定よりも順調に進んでおり、今年度中に完了することができる見通しである。①で明らかにした現象の背後にある分子メカニズムを解明するために、②の課題については具体的には、 (1) Akt上のPHD3による水酸化部位を特定し、(2) その部位に変異を導入したβ細胞株を作出し、(3) 低酸素下における細胞増殖、細胞死、インスリン分泌を評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度において高額な消耗品を多く購入する必要があり、支出が増大することが想定されたため、当該年度の予算を次年度に繰り越すことにした。
(使用計画)抗体およびインスリンELISAキットの大量購入、予備検討用の肥満型糖尿病モデルマウスの大量購入に繰り越し予算を使用する予定である。
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